
『直立猿人』を繰り返し聴けば,チャールス・ミンガスの「類まれなる音楽性」,すなわち作曲家として,編曲家として,ベーシストとして,バンド・リーダーとしてのチャールス・ミンガスの“全貌”が聴こえてくる。
チャールス・ミンガスの“頭の中で鳴り響くイメージ”が最高レベルで具現化された“大傑作”が『直立猿人』である。凝りに凝りまくったアルバムが多いチャールス・ミンガスの名盤群において,割と「ミンガス・ミュージックの音構造」を掴みやすいのが『直立猿人』なのである。
そう。ジャズ・ジャーナリズムが,こぞって『直立猿人』をチャールス・ミンガスの代表作としているが,管理人もそのことに同意する。
というか『直立猿人』は,モダン・ジャズ史を語る上で絶対に外すことのできない名盤の1枚なのである。
これは『直立猿人』だけでなく,チャールス・ミンガスのアルバム全てに共通して言えることであるが,チャールス・ミンガスには,レコーディング前に「今回はこういうアルバムを作りたい」という「明確なビジョン」が出来上っているように思う。
そしてチャールス・ミンガスのコンボである「ジャズ・ワークショップ」のメンバーはチャールス・ミンガスの「頭の中の明確なビジョン」を具現化するために,自分に出来る限りの演奏をもって「表現」する。
よって出来上がった音楽は非常に視覚的であり立体的である。チャールス・ミンガスのギターのリフのようなベース・ラインを“なぞる”形で,創造性豊かなリズミックなホーンがシンクロするハーモニーが破壊力抜群である。
『直立猿人』 → 映画「猿の惑星」 → TV「猿の軍団」?
ピテカントロプスの「進化〜優越〜衰退〜滅亡」の4部構成とされる【直立猿人】は,チャールス・ミンガスの説明によると,白人文明の危機や白人対黒人の対立を寓意しているというが,管理人がこの曲を初めて聴いた時,そんな背景や前提を一切知らず,ただ鳴っている音を聴いて凄まじい衝撃を受けた。野太く響くベースが“吠えている”。
ただし,このチャールス・ミンガス流の「デモ行進」は,理路整然と行進していく。警察に注意されればそれに従う,絶対に逮捕されない「デモ行進」。安心して音楽理論の上に乗って,音楽の不良をキメテいる。

そう。全てがチャールス・ミンガスの計算通りに録音された「監督&主演」チャールス・ミンガス流“怒りのロックンロール”の出世作である。
繰り返し聴き込み,一旦『直立猿人』の全4曲が見えてくると,こんなにも安心して“大暴れ”を楽しめるアルバムはない。「水戸黄門」を楽しむが如く,プロレスを楽しむが如く…。
『直立猿人』を聴いていると,頭の半分はリラックス&頭の半分は感覚が研ぎ澄まされていく。静かにそして熱く脳全体が活性化する。とめどなく続く快楽の波に身が震えてしまう。
「ミンガス・ミュージック」の真髄である“痛快な快感ジャズ”は『直立猿人』の時点ですでに完成されている。『直立猿人』は,チャールス・ミンガスの「ショーケース」なのである。
01. PITHECANTHROPUS ERECTUS
02. A FOGGY DAY
03. PROFILE OF JACKIE
04. LOVE CHANT
(アトランティック・ジャズ/ATLANTIC JAZZ 1956年発売/WPCR-25143)
(ライナーノーツ/悠雅彦)
(紙ジャケット仕様)
(ライナーノーツ/悠雅彦)
(紙ジャケット仕様)