MINGUS AH UM-1 『MINGUS AH UM』(以下『ミンガス・アー・アム』)を聴いていると,チャールス・ミンガスの“人間”を意識せずにはいられなくなる。

 『ミンガス・アー・アム』でチャールス・ミンガスがやったことは,ジャズという音楽を武器にしたプロパガンダであった。
 ど真ん中である,アーカンソー州の白人と黒人の共学事件で白人の偏見を支持した【フォーバス知事の寓話】を筆頭に,音楽から少し離れた所で,白人至上主義に対するチャールス・ミンガスの怒りとユーモアと風刺が痛いくらいに散りばめられている。

 管理人は長いことチャールス・ミンガスのプロパガンダが嫌いであった。多分に“聴かず嫌いな”側面もあったが,純粋に音楽は音楽のままであってほしいし,何より『ミンガス・アー・アム』はロマンティックで美しい名曲揃い。そんな美メロとセットですり込んでくる「サブリミナル効果」が嫌いだった。邪魔なだけであった。

 しか〜し,ある時点から『ミンガス・アー・アム』の「サブリミナル効果」が効いてきた。『ミンガス・アー・アム』の第1のテーマがプロパガンダであるならば,裏テーマは“チャールス・ミンガス流のデューク・エリントン”!
 ミンガス・ミュージックの底流に流れている“プレゼンツ・エリントン”がじわじわと効いてきたのだった。

 敬愛するデューク・エリントンへの「公開状」である【オープン・レター・トゥ・デューク】だけではなく【ジェリー・ロール】にしてもモロそうなのだが,レスター・ヤングへ捧げた“永遠の名曲”【グッドバイ・ポーク・パイ・ハット】を聴いていても『ミンガス・アー・アム』が流れると,いつでも頭のどこかにデューク・エリントンの顔が浮かび上がってくる感じ。

 『ミンガス・アー・アム』のフロント陣は,トロンボーンジミー・ネッパーアルトサックスクラリネットジョン・ハンディアルトサックステナーサックスシャフィ・ハディテナーサックスブッカー・アーウィンの4人の“B級”ブラス隊にも関わらず,ホーンの重ね具合が絶妙であって,ビッグ・バンド級の“濁り”と“厚み”のアンサンブルは,まるでデューク・エリントンオーケストレーション

MINGUS AH UM-2 そう。『ミンガス・アー・アム』でチャールス・ミンガスが真に表現したかったのは,デューク・エリントンビッグ・バンドのスモール・コンボにおける再現性の1点に尽きると思う。

 白人であったテオ・マセロジミー・ネッパーを“いいように使いながら”憧れのデューク・エリントンを模倣している。
 白人が嫌いで,黒人に対する人種差別に反対しながらも,チャールス・ミンガス自身は2度の結婚相手ともに白人美女にこだわり抜いた「差別する側」に身を置く,エゲツない“ジャズ・ジャイアント”であった。

 だから!なのか,でも?なのか『ミンガス・アー・アム』が年々好きになっていく。頭ではこれ以上好きになってはいけない「禁断の愛」であることぐらい分かっているのに『ミンガス・プレゼンツ・エリントン』好きが止まらない。どうしよう…。

  01. Better Git It in Your Soul
  02. Goodbye Pork Pie Hat
  03. Boogie Stop Shuffle
  04. Self-Portrait in Three Colors
  05. Open Letter to Duke
  06. Bird Calls
  07. Fables of Faubus
  08. Pussy Cat Dues
  09. Jelly Roll

(CBSソニー/CBS SONY 1959年発売/SICP 726)
(ライナーノーツ/斉木克己)

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