
クリスチャン・マクブライドについては,あの圧倒的なピチカートとアルコの骨太ベース・プレイを耳にすれば“ファースト・コール”である秘密も,一音で納得させられてしまうものなのだが,いやいや,クリスチャン・マクブライドの人気の秘密は,テクニカルなジャズ・ベーシストの域をはるかに超えるものであった。
『GETTIN’ TO IT』(以下『ファースト・ベース』)には“ジャズ・ジャイアント”クリスチャン・マクブライドのヒューマンな音楽がぎっしりと詰め込められている。
クリスチャン・マクブライドの考える“ハイセンスなジャズ”を表現するためのベース・プレイなのである。だ・か・ら・みんながみんなクリスチャン・マクブライドが欲しくなってしまうのだ。いや〜,素晴らしい!
ベーシストのソロ・アルバムと来れば,なぜか弾かない,アルバムが多いのだが『ファースト・ベース』も“ご多分に漏れず”3管フロントにしてビッグ・バンド的なアプローチやハード・バップ的なアプローチの演奏でブラス隊が大活躍。
『ファースト・ベース』は,クリスチャン・マクブライドのベースを楽しむというよりも,お洒落なコンテンポラリー・ジャズを楽しむ,という感じの仕上り具合である。
その心は「名コンポーザー=クリスチャン・マクブライド」の存在にある。『ファースト・ベース』の制作のテーマは,クリスチャン・マクブライドのオリジナル曲を如何に聴かせるか!
クリスチャン・マクブライドの自作曲を,テナー・サックスのジョシュア・レッドマン,トランペットのロイ・ハーグローブ,トロンボーンのスティーブ・タール,ピアノのサイラス・チェスナット,ドラムのルイス・ナッシュという,クリスチャン・マクブライドの“お耳”にかなった豪華ゲストのジャズメンたちが“入れ替わり立ち替わり”各々の本領を発揮しまくって帰って行く! 演り逃げして帰って行く!
知ってか知らずか,クリスチャン・マクブライドの自作曲をクリスチャン・マクブライドの狙い通りに,色彩豊かにアレンジしては帰っていく!
そう。『ファースト・ベース』の真実とは,豪華ゲストの“美味しい”部分だけを抽出して編集された,クリスチャン・マクブライド流の「イントロデューシング・アルバム」である。

演奏中は,クリスチャン・マクブライドのベースが「先導役」となり,フロントの音に深さと広がりを与えている。常にボトムを支え,時にメロディーをも支えてくれるクリスチャン・マクブライドが「お膳立て」しているのだから,思う存分の演奏ができているし,時に実力以上の実力?を発揮している。
クリスチャン・マクブライドのソロ名義を“シャードとして”最高のステージを準備し,お気に入りのジャズメンの“粋な紹介”ができるのも,百戦錬磨なクリスチャン・マクブライドだからできた名人芸。
その際たるものが【SPLANKY】。クリスチャン・マクブライドがホスト役に徹し,ジャズ・ベースのレジェンドである・レイ・ブラウンとミルト・ヒントンとブルースしまくるウォーキング。
だからクリスチャン・マクブライドが好きなんだよなぁ。『ファースト・ベース』が好きなんだよなぁ。スルメ盤なんだよなぁ。
01. In A Hurry
02. The Shade of the Cedar Tree
03. Too Close For Comfort
04. Sitting On A Cloud
05. Splanky
06. Gettin' To It
07. Stars Fell On Alabama
08. Black Moon
09. King Freddie Of Hubbard
10. Night Train
(ヴァーヴ/VERVE 1995年発売/POCJ-1252)
(ライナーノーツ/キープ・グリージン,クリスチャン・マクブライド)
(ライナーノーツ/キープ・グリージン,クリスチャン・マクブライド)