
そしてアントニオ・サンチェスの『MIGRATION』(以下『マイグレーション』)と聞くと,すぐにパット・メセニー・ユニティ・バンドの『UNITY BAND』,あるいはパット・メセニー・ユニティ・グループの『KIN(←→)』を想起してしまう。
そう。『UNITY BAND』『KIN(←→)』の原型は『マイグレーション』にある。
アントニオ・サンチェスが準備した『マイグレーション』セッションにおけるインスピレーションが,あのパット・メセニーに『80/81』以来,実に32年振りとなるサックス・フィーチャリング・アルバムを制作させることになったのだ。
『マイグレーション』の録音メンバーである,ドラムのアントニオ・サンチェス,ギターのパット・メセニー,テナー・サックスとソプラノ・サックスのクリスポッターの名前がそのまんま,パット・メセニー・ユニティ・グループの「メンバー表」にずらり。
ギターのパット・メセニーとドラムのアントニオ・サンチェスが参加する2つのパット・メセニー・グループであっても,パット・メセニー・グループ(以下,PMG)とパット・メセニー・ユニティ・グループ(以下,PMUG)では,ルーツが異なっているのだから,POPなPMGとJAZZYなPMUGでは音楽的に違って当然なのである。
おおっと,このままではパット・メセニー批評に流れそうな勢いなので,話を『マイグレーション』批評に戻すとするが,ズバリ言っておくと『マイグレーション』におけるアントニオ・サンチェスとの結びつきは,パット・メセニー以上にチック・コリアの方が強いということ! 読者の皆さんには,この衝撃の事実を踏まえてから『マイグレーション』を聴いてみてほしい,ということ!
“ズブズブな関係”であるパット・メセニーとアントニオ・サンチェスのコラボレーション以上に,チック・コリアとアントニオ・サンチェスのコラボレーションの熱量が高いのだ。
そうなると思い起こすのがチック・コリアとアントニオ・サンチェスがベースにジョン・パティトゥッチを迎えてピアノ・トリオを組んだ『ドクター・ジョー〜ジョー・ヘンダーソンに捧ぐ』の存在である。
録音データは『ドクター・ジョー〜ジョー・ヘンダーソンに捧ぐ』の方が後だから,チック・コリアが『マイグレーション』で“味をしめた”と判断できる。そう言えば『マイグレーション』の7曲目【INNER URGE】はジョー・ヘンダーソンのオリジナルであるし…。
アントニオ・サンチェスの何がパット・メセニーを,そしてチック・コリアを魅了するのだろうか?
リーダーとしてプレイした『マイグレーション』におけるアントニオ・サンチェスのドラミングはJAZZY。PMUGがJAZZYに振れているのはアントニオ・サンチェスからの影響である。
PMGではアグレッシブにドラムを叩いていたアントニオ・サンチェスであるが,PMUG,そして『マイグレーション』では,繊細かつツボを抑えた的確で“COOL”なドラミングが気持ちいい。

あまり聞き馴染みのないインテリジェンスでとっつきにくい編成だと思うが,思わず引き込まれてしまったのは“ジャズ・ドラマー”アントニオ・サンチェスの決め技,小技が連続する多彩なドラミングだけが持つ独特の雰囲気にある。
アントニオ・サンチェスは「万能型」のドラマーである。きっちりとした音楽理論をバックボーンに,共演者のスタイルに合わせつつもトリッキーなカウベル・ワークやクラーベ,自在にダイナミクスを操るスネアを駆使してインプロヴィゼーションを仕掛けている。
そう。高次元で音楽性を拡大させるマニアックなドラミングこそが,アントニオ・サンチェスの“真骨頂”なのであろう。
そんなアントニオ・サンチェスだから,同じ気質のチック・コリアとの相性チリバツ!
パット・メセニーがアントニオ・サンチェスをワールド・ツアーで拘束することがなければ,恐らくはチック・コリアがアントニオ・サンチェスを強奪する!と予言しておこう。
PS アドリブログの本編でも登場したのは主役のアントニオ・サンチェスと大物ゲストのパット・メセニーとチック・コリアの名前だけ。『マイグレーション』のセオリーはアントニオ・サンチェスに絡むパット・メセニーとチック・コリアで十分だけと思われがちだが,どうしてどうして…。アントニオ・サンチェスがパートナーに選んだスコット・コリーが素晴らしい。パット・メセニーがPMUGに選んだクリス・ポッターが神懸り。レギュラー・メンバーの名演も熱く語られるべきだと思う,ということだけは書き残しておく。
01. One for Antonio
02. Did you get it?
03. Arena (Sand)
04. Challenge within
05. Ballade
06. Greedy Silence
07. Inner Urge
08. The Hummingbird
09. Solar
(カムジャズ/CAM JAZZ 2007年発売/VACM-1317)
(デジパック仕様)
(ライナーノーツ/成田正)
(デジパック仕様)
(ライナーノーツ/成田正)
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