
全曲クラウス・オガーマンの作・編曲を鳴らすために自らタクトを振った,総勢64名のコンチェルトの客演として,キーボードのウォーレン・バーンハート,ギターにジョン・トロペイとバジー・フェイトン,ベースのエディ・ゴメスとマーカス・ミラー,パーカッションのポウリーニョ・ダ・コスタ,ドラムのステーヴ・ガッドの主役級が多数参加しているが,ソロをとるのはクラウス・オガーマン・コンチェルトの“主役”に据えられたマイケル・ブレッカーのテナー・サックスのみ。
ゆえに『シティスケイプ』の聴き所は,唯一のソロイスト=マイケル・ブレッカーのテナー・サックスとなるのだが『シティスケイプ』に限っては,同じくお膳立てされたものだとしても,通常のマイケル・ブレッカーのソロ・アルバムとは異なり,マイケル・ブレッカーを聴くためのアルバムではない。
ズバリ,マイケル・ブレッカーを聴いているようで,実はクラウス・オガーマンの「頭の中のテナー・サックス」を聴かされているにすぎない。クラウス・オガーマンの“影武者”としてのマイケル・ブレッカーがテナー・サックスを吹き上げている。
知的で陰影に富んだクラウス・オガーマンの無調風のストリングスにマイケル・ブレッカーの“COOL”なメタル・マウスピースのテナー・サックスが不思議にも都会的に洗練された寂寥感を運んでくる。
タイトなリズム隊を手なずけ,アドリブを捨て,譜面通りに吹くモダンなマイケル・ブレッカーに「都会のコンクリート・ジャングル」のイメージが重なってくる。
管理人は後日談として『シティスケイプ』録音時のマイケル・ブレッカーが気管支の問題と闘っていたことを知った。もしかしたらもう演奏出来なくなるのかも知れないという危機感の中,一音一音に魂を込めて吹き込んだそうだ。
そんなマイケル・ブレッカーの不調を知りながらも『シティスケイプ』の重要パーツとして,自分の“メタルな音”を欲したクラウス・オガーマンを,当のマイケル・ブレッカーが従順に受け入れている。主役を演じるパーツの一つに徹している。
クラウス・オガーマンの「頭の中のテナー・サックス」を聴いていると,クラウス・オガーマンとマイケル・ブレッカーのミュージシャン・シップ,その信頼関係の深さに感動してしまう。

“影武者”であったはずのマイケル・ブレッカーが,本物のクラウス・オガーマンと同化し,ついにはクラウス・オガーマンの思い描いた高みを超えてきている。
クラウス・オガーマンとマイケル・ブレッカーの“壮大なコラボレーション”ここに極まりたり!
ギル・エヴァンスにしてもクインシー・ジョーンズにしても,そしてクラウス・オガーマンにしても,本物の天才アレンジャーに本気で仕事をさせたなら,最高にして最強のジャズを必らずや鳴らしてくれる。「音の錬金術」という他ない。
マイケル・ブレッカー・フィーチャリングな『シティスケイプ』のアレンジの肝は,ストリングスとキーボードが織り成す“リリシズム”にあると思う。硬質なのにふんわりとした音色の温かさと人間味溢れるユニークな和音のヴォイシングが最高に素晴らしい。
「都会のコンクリート・ジャングル」に囲まれて暮らしてはいても,人間一人一人にドラマがある。カッコよく生きるために何かと必死で闘っている。あの日のマイケル・ブレッカーがそうであったように…。
01. CITYSCAPE
02. HABANERA
03. NIGHTWINGS
04. IN THE PRESENCE AND ABSENCE OF EACH OTHER (PART 1)
05. IN THE PRESENCE AND ABSENCE OF EACH OTHER (PART 2)
06. IN THE PRESENCE AND ABSENCE OF EACH OTHER (PART 3)
(モザイク・コンテンポラリー/MOSAIC CONTEMPORARY 1982年発売/WPCR-27424)
(ライナーノーツ/松下佳男)
(ライナーノーツ/松下佳男)