
『マウンテン・ダンス』は,恐らく細かく譜面が起こされていて,そこには適当とか,さらリと流すとか,ノリのまかせて,と言うような「ジャズ的でアドリブを自由に弾かせるソロ・パートのない」端整な完全密封書き譜アレンジのパッケージ音楽である。
そう。『マウンテン・ダンス』は“名曲揃い”のゴールデン・アルバムである。プレイが主役ではなく曲が主役のゴールデン・アルバムである。
例えば,タイトル・トラックである【MOUNTAIN DANCE】は,後に映画「恋におちて」のサウンド・トラックとして使用されたが,確かに【MOUNTAIN DANCE】聴いていると,演奏しているミュージシャンの姿ではなく,雄大でナチュラルな原色“マウンテン”カラーの風景が脳裏に浮かぶ。そんな「映像系の曲」であろう。
しかし,それでも管理人は『マウンテン・ダンス』は,ジャズ的なフュージョンだと断言する。それは,譜面に忠実に弾いても自分の個性を出せる,7人の超一流ジャズメンの“演奏力”があってこそ!
デイヴ・グルーシンのピアノとエレピ,ジェフ・ミロノフのギター,マーカス・ミラーのベース,ハービー・メイソンのドラム,ルーベンス・バッシーニのパーカッション,イアン・アンダーウッドとエドワード・ウォルシュのシンセサイザーが,譜面通りに進行しつつも,譜面から「1/F」離れて「遊んでる」。
デイヴ・グルーシンが準備した最高のメロディーを前にして,ジャズメンたるもの「遊ばずにはいられない」。
尤も,超絶技巧を要するサビもあり,そこは四苦八苦しながらも,間違いなく弾ききる喜びがある。実際には冷や汗もんの高難度のユニゾンなのに,涼しい顔して余裕で弾いているかのようなダマシの演奏に「遊び」がある。
7人のメンバー全員がテクニックに走らずに,丁寧に美しいメロディーを響かせることだけに集中している。
ズバリ『マウンテン・ダンス』から感じる“洗練された構築美”は,1つでも失敗したらアルバム全てが終わってしまうかのような「THE END」の「遊び」があるのだ。

当時はまだ無名の若手であったマーカス・ミラーの超絶チョッパーに,ふくよかなハービー・メイソンのドラムが刻む“GROOVE”にノリノリのデイヴ・グルーシンが「ジャズ・ファンク」を「遊んでいる」。
クラシカルであり,ジャズ・ロックであり,得意の映画音楽風なLAフュージョンの“金字塔”『マウンテン・ダンス』に“ハートを鷲づかみ”されてしまう最大の理由は,デイヴ・グルーシンの胸に秘められている“ジャズ・ピアニスト”への憧れやロマンを感じてしまうからであろう。
その意味で『マウンテン・ダンス』のハイライトは,世紀の名曲【MOUNTAIN DANCE】でも,リー・リトナーとアール・クルーの【CAPTAIN CARIBE】でもなく,リリカルなソロ・ピアノの【THANKSONG】なのであろう。素晴らしい。
01. RAG-BAG
02. FRIENDS AND STRANGERS
03. CITY NIGHTS
04. RONDO..."IF YOU HOLD OUT YOUR HAND"
05. MOUNTAIN DANCE
06. THANKSONG
07. CAPTAIN CARIBE
08. EITHER WAY
DAVE GRUSIN : Piano, Fender Rhodes, Synthesizer
JEFF MIRONOV : Guitar
MARCUS MILLER : Bass
HARVEY MASON : Drums
RUBENS BASSINI : Percussion
IVAN UNDERWOOD : Synthesizer
EDWARD WALSH : Synthesizer
(ビクター/JVC 1979年発売/VICJ-61032)
(☆XRCD24盤仕様)
(ライナーノーツ/岩浪洋三)
(☆XRCD24盤仕様)
(ライナーノーツ/岩浪洋三)
ローマ10章 伝道する人たちの足は美しい
ハービー・ハンコック 『フィーツ』
コメント一覧 (2)
ワタシはこのアルバムには、いささか思い出があります。
何せ、初めて聞いたのは、高校生でまだロック少年でしたから。
一曲目のマーカスとメイスンとグルーシンのテュッティーに、文明開化。
という・・。
「文明開化」。まさにその表現がぴったりですね。私も同じく元ロック少年でしたが,マーカスとメイスンの極上のリズムを駆け抜けるグルーシンのピアノに,洋ものへの憧れを感じたものです。
『マウンテン・ダンス』からは,いつ聴いても“夢やロマン”を感じてしまいます。
いい青春時代を送らせていただきました。いい時代にいい音楽と巡り会えたものですねっ。