
『シネマジック』を聴くまでは,デイヴ・グルーシンと来れば『マウンテン・ダンス』然り,リー・リトナーや渡辺貞夫絡みのLAフュージョンの“大御所”ピアニストであり,GRPの主催者としての認識であった。
しかし“新録音された”『シネマジック』の「ファンタジーの世界」に魅了されてからというもの,管理人にとってデイヴ・グルーシンと来れば「映画音楽の人」となった。
自分の個性を捨て,作りたい音楽表現の発想が制限され,ただただ映画のストーリーを盛り上げるべく“裏に回ったはずの”デイヴ・グルーシンの個性が,俄然“前面へ”と浮かび上がっている。
そう。デイヴ・グルーシンの有する「叙情性の構築美」を表現する最適なフォーマットが「映画音楽」というわけだ。
アドリブログでこれまで何度も書いているが,映画は全く見ない管理人であっても,街角で耳にしてきた「黄昏」「天国から来たチャンピオン」「トッツィー」(←「トッツィー」と聞くとどうしてもイタリアはローマのサッカー選手=トッティを連想してしまう)「グーニーズ」「愛すれど心さびしく」「恋におちて」「チャンプ」「コンドル」「リトル・ドラマー・ガール」のサウンド・トラックが,見事にリ・アレンジされて“デイヴ・グルーシンの音楽”として輝いている。
デイヴ・グルーシンの作ったスコアが「映画音楽」から離れ,デイヴ・グルーシンの“レギュラー・バンド”の手に渡された瞬間,デイヴ・グルーシンのピアノとシンセサイザー,ドン・グルーシンのシンセサイザー,リー・リトナーのギター,エイブ・ラボリエルのベース,ハービー・メイソンのドラム,トム・スコットのソプラノ・サックスとテナー・サックス,アーニー・ワッツのテナー・サックス,エディ・ダニエルズのクラリネット,マイク・フィッシャーのパーカッション,エミル・リチャーズのパーカッションが,オリジナル・サウンド・トラックを上回る「叙情性の構築美」を奏で始める。

1曲1曲の完成度が極めて高く,映画同様,曲が進行するにつれ,徐々にテーマの中に感情が籠って行く過程が楽しめる。
ハラハラドキドキの連続で展開するサビを迎えたとしても,映画本編がほぼハッピー・エンドで終わるのだから,そのサウンド・トラック『シネマジック』に安心して没頭することができる。
『シネマジック』を聴いていると,もはや映画の主人公はリスナー自身である。人それぞれの人生の節目で流れ出す「悲喜交交」なサウンド・トラックがある。
『シネマジック』の,時に明るく楽しくコミカルで,時にロマンティックでセンチメンタルな“叙情的なメロディー・ラインとリズムの絶妙な絡み合う美しさ”の“グルーシン・マジック”なのであろう。
01. ON GOLDEN POND
02. NEW HAMPSHIRE HORNPIPE
03. HEAVEN CAN WAIT
04. AN ACTOR'S LIFE
05. IT MIGHT BE YOU
06. FRATELLI CHASE
07. THE HEART IS A LONELY HUNTER
08. MOUNTAIN DANCE
09. LETTING GO (T.J.'S THEME)
10. THE CHAMP
11. CONDOR
12. GOODBYE FOR KATHY
13. PLO CAMP ENTRANCE
14. LITTLE DRUMMER GIRL EPILOGUE
(GRP/GRP 1987年発売/VDJ-1089)
(ライナーノーツ/シドニー・ポラック,柳生すみまろ,デイヴ・グルーシン)
(ライナーノーツ/シドニー・ポラック,柳生すみまろ,デイヴ・グルーシン)