THE REVOLUTION WILL NOT BE COMPUTERIZED-1 “鬼才”菊地成孔のマルチな活動を追い続けていると,メディアミックスによるメジャーな展開とその胡散臭さから?どんどんジャズから遠ざかっている,と感じていた。
 菊地成孔の新バンド「菊地成孔ダブ・セクステット」は,レコーディング芸術としての「ダブ」がテーマと聴いて,ますますジャズから逃げていく,と感じていた。

 そんな「菊地成孔ダブ・セクステット」のデビュー・アルバムのタイトルが『THE REVOLUTION WILL NOT BE COMPUTERIZED』ときた。直訳すると「革命はコンピューター化されない」である。
 オオーッ,ついにこの時がやって来た。「菊地成孔ダブ・セクステット」の結成は,菊地成孔による「既存のジャズへの革命宣言」であり「既存のジャズへの挑戦状」であるかのように受け取れた。“衝撃の問題作”が提示されることを期待した。

 しか〜し,そうではなかった。事実は想像の反対であった。菊地成孔が真面目に「ジャズの王道」と向き合っている。菊地成孔が「伝統の再生」へと舵を切ってきている。

 ズバリ「菊地成孔ダブ・セクステット」名義の『THE REVOLUTION WILL NOT BE COMPUTERIZED』は,事実上,菊地成孔からの「ジャズ回帰宣言」であった。
 オーソドックスでストレートでスタンダードな“電化”ハードバップに,我を忘れて“絶叫”してしまった。スクラッチがリードする超攻撃的なハードバップを久しぶりに聴いた気がしたのだ。

 『THE REVOLUTION WILL NOT BE COMPUTERIZED』の2曲目【DUB SORCERER】は『SORCERER』の【SORCERER】がネタ元だし,4曲目【PARLA】は『NEFERTITI』の【FALL】がネタ元だし,5曲目【INVOCATION】は『MILES SMILES』の【FOOTPRINTS】+『WATER BABIES』のテーマがネタ元であることはマイルスのマニアであればすぐに分かる。

THE REVOLUTION WILL NOT BE COMPUTERIZED-2 そう。菊地成孔からアナウンスされた「ダブ・セクステット」の役割モデルは,マイルス・デイビスの第二期“黄金のクインテット”による『E.S.P.』『MILES SMILES』『SORCERER』『NEFERTITI』のスタジオ4部作。

 “電化マイルス”と比較して過小評価されてきた,フル・アコースティックマイルス・デイビスに,デジタル・エフェクトが絡みつき“電化マイルス”に「負けず劣らずの破壊力」を身にまとうことに成功している。
 触媒として“COOL”にコラージュされた「ダブ」がスパイスとして効きまくった,全く新しい“電化ハードバップ”の出現である。『THE REVOLUTION WILL NOT BE COMPUTERIZED』こそが現在進行形の“モーダル”である。
 正しく「革命はコンピューター化されない」のであった。

 菊地成孔が「21世紀のマイルス・デイビス」を再現するために取った手法は「アウトすること」にある。
 一聴すると“定番で王道な”マイルス・デイビスっぽいのだが,例えば,別々でバラ録りしてコンピュータで編集したり,音をわざとディレイ処理でずらしたり,サンプリングされたタイムラグをループさせたりと,徹底的に“虚構のマイルス・サウンド”を鳴らしている。

THE REVOLUTION WILL NOT BE COMPUTERIZED-3 そう。「ジャズの王道」を追いかけ続ける菊地成孔が,実際にはジャズからどんどん遠ざかっているように「菊地成孔ダブ・セクステット」が作り上げた“虚構のマイルス”も「ダブ」を重ねれば重ねるほど,実際のマイルス・サウンドから遠ざかってしまっている。
 ただし,管理人は菊地成孔が選択した「アウトする」手法を肯定する。なぜならマイルス・デイビスは基本「破壊王」だったのだから…。

 “ジャズの帝王”マイルス・デイビスは永遠である。「捕まえきれそうで捕まえることのできない」孤高の存在である。
 マイルス・デイビスに近づくにはマイルス・デイビスを聴き続けるしか他に手がない。我慢して背伸びして聴き続けていれば,いつか手が届くようになるのかもしれない…。
 「ダブ」で「アウトすること」を別にすれば…。

PS 「THE REVOLUTION WILL NOT BE COMPUTERIZED-3」は販促用のポストカードです。

  01. Dub Liz
  02. Dub Sorcerer
  03. AAAL
  04. Parla
  05. Invocation
  06. Caroline Champetier
  07. Susan Sontag
  08. Betty-Go-Round

(イーストワークス・エンタティンメント/EWE 2007年発売/EWCD-0141)
(紙ジャケット仕様)

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