
「菊地成孔ダブ・セクステット」の2nd『DUB ORBITS』には,前作以上に革新的で過激な「ダブ」が仕掛けられているのだろうが,その全てがスッキリのクリアーな視界の“電化”ハードバップ。
結果『DUB ORBITS』は,相当に聴きやすい“スクラッチ&ダビー・エフェクト”。全てが上手くいったのだろう。超カッコイイ。
だ・か・ら『DUB ORBITS』批評では「菊地成孔ダブ・セクステット」が使用した最新のデジタル処理の知識については書かないし,書きたくもない。
書きたいのは,菊地成孔の“鬼才”のみ。カオスと混沌をここまで“まとめ上げた”菊地成孔の“鬼才”は,ウェイン・ショーターばりに「遠くまで見通す音楽の目」にあると思う。理知的な彼だけあって,特に「最終アウトプットの術」を誰よりも知っている。
様々な要素を詰め込み,こねくり回しているであろう『DUB ORBITS』の立ち位置は,本来なら,もうぐっちゃぐちゃで身動きが取れない“電化”であろうが,聴いた印象としては,理路整然とスムーズに仕分けされた“アコースティック”特有の香りがする。
そう。『DUB ORBITS』の真実とは「最新のエレクトリック・ジャズの仮面を被った,生粋のアコースティック・ジャズ」なのである。
『DUB ORBITS』における菊地成孔の“鬼才”は「インプロビゼーションの交通整理人」たる役所にある。バッサバッサの仕分け人。
本来なら“自然発生的”に鳴りだす過激なインプロビゼーションが,バンドの計算通りに「連動」している。ひたすらCOOLに,ぶち切れることなく抽象的にまとめ上げられたテーマが「連動」している。
そう。その場その場で判断されるアドリブの「出口」が「菊地成孔ダブ・セクステット」には見えている。猛烈な勢いのまま“粉々に砕け散った”スローモーション風に“止まって聴こえる”瞬間こそが美しい。

『DUB ORBITS』の基本サウンドは,尖がっているのに尖がっていない。これまでの「難解路線」の菊地成孔にはなかった「聴きやすさ」がプラスされてきている。
菊地成孔が『DUB ORBITS』で投入した「聴きやすさ」のヒントは,例えば,あのハービー・ハンコックも『V.S.O.P.』で体験した,最先端エレクトリックからの“揺り戻し”にあるように思う。
そう。単なる懐古主義ではなく,時代の進歩に合わせた「アコースティックの新鮮な響き」は,エレクトリックの手法をフィードバックすることから誕生するものなのだ。
その意味で『DUB ORBITS』は,エレクトリックを“骨の髄までしゃぶり尽くした”菊地成孔だから作ることを許された「スタイリッシュでCOOLな」最良のアコースティック・サウンド! ストレートな“電化”ハードバップの響きが最高にカッコイイ!
01. (I’ve lost my) Taylor Burton
02. Koh-I-Nur
03. Orbits
04. Despute
05. Ascent
06. Monkey Mush Down
07. Dismissing Lounge From The Limbo
(イーストワークス・エンタティンメント/EWE 2008年発売/EWCD-0154)
(デジパック仕様)
(デジパック仕様)