THE ELEMENTS:WATER-1 何かの雑誌に書いてあったが,マイルス・デイビスの訃報を聞いたパット・メセニーの悲しみようは尋常ではなかったそうだ。
 いつの日か訪れたであろうマイルス・デイビスとの共演というパット・メセニーの「夢の1つ」が断たれたからなのであろう。

 ライバルであるジョン・スコフィールドマイルス・デイビスバンドのレギュラー・ギタリストの座を先を越されても,いつかはきっと振り向いてくれる,という強い思いで支えられていたパット・メセニーの“心が折れた”瞬間だったのだろう。

 しかし,パット・メセニーというギタリストはそれぐらいで挫けるような男ではない。パット・メセニーが次に狙ったのは,マイルス・デイビスバンドの共演者との共演である。そうすることで間接的にマイルス・デイビスとの疑似共演を体感できる!

 デイヴ・リーブマンの『THE ELEMENTS:WATER』(以下『ウォーター』)に“招待”された瞬間のパット・メセニーの喜びようが想像できる。子供のように大喜びして,二つ返事でOKを出したパット・メセニー…。
 だってデイヴ・リーブマンこそが“電化マイルス”の中心人物だったのだから…。

 ズバリ『ウォーター』の聴き所は,パット・メセニーの“色眼鏡”がかかった,デイヴ・リーブマンの「印象派」ジャズ・アルバムである。

 パット・メセニーの“屈折した”デイヴ・リーブマン像が明確であって“電化マイルス”を想起させるギターシンセが静かにエグイ,相当に厳しい内容である。
 カテゴリーとしてはコンテンポラリージャズではなくフリージャズに入れられるべきアルバムである。

 そんな中,デイヴ・リーブマンソプラノサックスパット・メセニーのピカソ・ギターで描く「絵画的」な表現は,テーマである『』と呼ぶにピッタリな「抽象的」な演奏である。

THE ELEMENTS:WATER-2 液体としての『』が,時に“軽い”気体となり,時に“硬い”固体となる。デイヴ・リーブマンパット・メセニーが“ジャズの浄水フィルター”をかけて『ウォーター』を『ミネラル・ウォーター』ばりに磨き上げている。

 パット・メセニーの念願かなったデイヴ・リーブマンとの共演盤『ウォーター』。『ウォーター』とは全然違うのだけど,聴き終えた感想はオーネット・コールマンとの『SONG X』にも通じる,なんでこうなっちゃうの〜。

 パット・メセニーよりも「理論派」としてのデイヴ・リーブマンが「1枚上」ということなのだろう。

  01. Water
  02. White Caps
  03. Heaven's Gift
  04. Bass Interlude
  05. Reflecting Pool
  06. Storm Surge
  07. Guitar Interlude
  08. The Baptismal Font
  09. Ebb and Flow
  10. Water Theme(reprise)

(徳間ジャパン/ARKADIA JAZZ 1998年発売/TKCB-71521)
(ライナーノーツ/ハワード・マンデル,デイヴ・リーブマン,成田正)

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