WAITING FOR SPRING-1 競争激しいスムーズ・ジャズ系のピアニストの中にあって,デビッド・ベノワが他とは一線を画する理由が『WAITING FOR SPRING』(以下『ビル・エヴァンスに捧ぐ』)の中に秘められている。

 『ビル・エヴァンスに捧ぐ』とは,デビッド・ベノワによるビル・エヴァンストリビュート
 そう。リリカルでエモーショナルなデビッド・ベノワのルーツはビル・エヴァンスピアノにあったのだ。

 尤も,ビル・エヴァンストリビュート自体は珍しくない。
 管理人が『ビル・エヴァンスに捧ぐ』をプッシュする理由は『ビル・エヴァンスに捧ぐ』が,よくあるビル・エヴァンストリビュートに終わるのではなく,ピンポイントで『ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリングトリビュートになっているからである。

 真のビル・エヴァンス・マニアにとって,ビル・エヴァンスの“最高傑作”と来れば「リバーサイド四部作」ではなく『ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリング』であるはずである。これは聴き比べればすぐに分かる事実である。

 ゆえにデビッド・ベノワが,ビル・エヴァンストリビュートの題材として『ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリングトリビュートを制作したとなれば,聴かないわけにはいかなかった。

 デビッド・ベノワによる『ビル・エヴァンスに捧ぐ』は,確かに内省的なデビッド・ベノワであり,水墨画の色彩を十分に帯びたビル・エヴァンスである。
 デビッド・ベノワの音楽は「第二のビル・エヴァンス」を目指してきたわけではない。デビッド・ベノワは「今も昔も」デビッド・ベノワであり続けてきたことが伝わってくる。

 一方では,ビル・エヴァンスに恋焦がれつつも,一方ではビル・エヴァンスを頑なに拒絶しているのだ。
 しかし,それでも『ビル・エヴァンスに捧ぐ』を聴いていると,管理人にはデビッド・ベノワによる“エヴァンス派”宣言に聴こえて仕方がなかった。

WAITING FOR SPRING-2 そう。それこそが『ユー・マスト・ビリーヴ・イン・スプリングトリビュートの香り!
 人生に絶望しつつも,心のどこかで明日に期待してしまうのが人間なのである。明けない夜はないのだ。春の来ない冬はないのだ。

 ビル・エヴァンスの『YOU MUST BELIEVE IN SPRING』→デビッド・ベノワの『WAITING FOR SPRING』!

 この時期,管理人が無性に聴きたくなるアルバムである。春を待ち焦がれながら聴くにはもってこいのアルバムである。

  01. Waiting For Spring
  02. After The Snow Falls
  03. Cast Your Fate To The Wind
  04. Turn Out The Stars
  05. Cabin Fever
  06. Cat On A Windowsill
  07. Some Other Sunset
  08. My Romance
  09. Funkallero
  10. I Remeber Bill Evans
  11. Fireside
  12. Secret Love

(GRP/GRP 1989年発売/VDJ-1224)
(ライナーノーツ/デビッド・ベノワ,小川隆夫)

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