FINGER DANCING-1 管理人にとって“増尾好秋”と来れば,連想するのはソニー・ロリンズであり渡辺貞夫であり『NEW YORK CONCERTO』での【アランフェス協奏曲】。まぁ,つまりは“ジャズ・ギターの人”である。

 エレクトリックギターを手にした増尾好秋が“ショルキー”チョーキング野郎のヤン・ハマーと共演した,ジャズ・ロック名盤FINGER DANCING』(以下『フィンガー・ダンシング』)を聴いても,増尾好秋に対する印象は変わらない。

 世評における『フィンガー・ダンシング』は,フュージョンとかロック寄りの文脈で語られることが多い。確かにヤン・ハマーだけを聴いているとそう思うだろう。
 なにせヤン・ハマーの歴代の相棒ギタリストは,マハヴィシュヌ・オーケストラジョン・マクラフリンであり,ワイアードジェフ・ベックであり,リターン・トゥ・フォーエヴァーアル・ディメオラであり,ジャーニーニール・ショーンなのだから…。

 しか〜し,そんな“ショルキー”チョーキング野郎とタイマンを張った増尾好秋が動じない。
 『フィンガー・ダンシング』での増尾好秋は,ヤン・ハマーがユニゾンを被せ気味に攻めてきても,加えて,これだけは書きたい!『フィンガー・ダンシング』の“影の主役”であるベースラッセル・ブレイクがどんなに熱く煽ろうとも,早弾きや凝ったフレーズ展開はあまりなく,いたってシンプルに音を鳴らしまくっていく。感じたままの音をただ本能的に垂れ流しているような感じで…。

 う〜む。凄い。この音の返しが凄い。数フレーズ前の音を掛け合せてのこの瞬間のこの一音が,やっぱりジャズしている。“ショルキー”チョーキング野郎の隣りで「間を取った」ジャズ・ギターを弾く勇気と自信。う〜む。本場で踏んできた場数の経験値の賜物なのであろう。

 そんな“悠然とJAZZYに構える”増尾好秋と“ロックの言語で対話する”ヤン・ハマーがハマリ役。流石にこちらも,名うての“ショルキー”チョーキング野郎なだけのことはある。
 ライブが進行するにつれ,徐々に増尾好秋を丸裸にして,増尾好秋が持つメロディアスなリフとフレーズを引き出しながら,ヤン・ハマーの土俵へと誘い込むことに成功している。

 そう。『フィンガー・ダンシング』の構図はこうだ。ヤン・ハマーが徐々に増尾好秋の回しを引き付け,ロックへ寄り切ろうとするのを必死にこらえて“うっちゃる”JAZZYな増尾好秋

FINGER DANCING-2 管理人はソロバトルの合間で流れる,増尾好秋ヤン・ハマーの互いに一歩も引かない目一杯なユニゾンを聴くといつでもニンマリしてしまう。

 互いに音を重ね合いながらも,ユニゾン終わりの予測不能の展開にドキドキハラハラしているのかな? 攻める側のヤン・ハマーが頭フル回転なのに,受ける側の増尾好秋は余力を残して楽しそうだなぁ。

 ただし,繰り返す。管理人が『フィンガー・ダンシング』を聴く目的は,増尾好秋ヤン・ハマーの熱きソロバトルに,後ろから絡んでいくベースラッセル・ブレイク

 ラッセル・ブレイクとしては,主役の増尾好秋ヤン・ハマーを喰うわけにはゆかない。ゆえにスマートでシンプルなインプロビゼーションを披露しているのだが,これが気持ちいいったらありゃしない。

 ズバリ『フィンガー・ダンシング』のハイライトは,増尾好秋ヤン・ハマーのガチンコ・バトルに刺激された,ラッセル・ブレイクのナチュラルすぎるビートとベースソロ
 ラッセル・ブレイクベースは,聴くのではなく感じ取るもの。縦ノリと横ノリの両方に安心して身を委ねてほしい。もの凄い,快感!

  01. WAITING NO MORE
  02. ALL RIGHT
  03. YOUNG FILLY
  04. LET US GO
  05. A LITTLE BIT MORE
  06. SUNSHINE AVENUE

(エレクトリック・バード/ELECTRIC BIRD 1981年発売/KICJ-2405)
(ライナーノーツ/川島重行)

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