
『流麗なる誓い』におけるデヴィッド・サンボーンは,フュージョン・サックスなど吹いていない。『流麗なる誓い』でデヴィッド・サンボーンが吹いているのは「POPでロックでAORな」アルト・サックス。
なぜなら『流麗なる誓い』は,デヴィッド・サンボーンの全ディスコグラフィ中,唯一の「デヴィッド・サンボーン・バンド」名義のアルバムなのである。
そう。『流麗なる誓い』におけるデヴィッド・サンボーンは,バンドのフロントマン。デヴィッド・サンボーンのメインの仕事は「歌うこと」である。
“御大”デヴィッド・サンボーンなのだから,今となっては貴重すぎて,お宝的な1枚になったが『流麗なる誓い』では,ヴォーカルを披露しソプラニーニョで“天下を取っている”。
アルト・サックスも吹いてはいるが,デヴィッド・サンボーンのそれは,アルトを鳴らす感じではない。これはコーラスである。曲にコーラスを付けている。流石は「スタジオ・ミュージシャン上がり」な“絶妙すぎる”仕上りである。
どうにもこうにもデヴィッド・サンボーン“らしさの薄い”『流麗なる誓い』であるが,聴き誤ってはならない。『流麗なる誓い』の最大の魅力は,デヴィッド・サンボーンの考える“バンド・サウンド”にある。
「デヴィッド・サンボーン・バンド」のメンバーは,アルト・サックス&ソプラニーニョ&リリコン&ヴォーカルのデヴィッド・サンボーン,キーボードのロザリンダ・デレオン,ギター&ヴォーカルのハイラム・ブロック,ベースに「パット・メセニー・グループ加入前の!」マーク・イーガン,ドラムのヴィクター・ルイス,パーカッションのジュマ・サントスに4人のゲスト・ヴォーカル入りという大所帯。
ゆえにデヴィッド・サンボーン以外のバンド・メンバーの出番が多いのだが,不思議なことに出来上がった音楽は,そのどれもがデヴィッド・サンボーン印を感じてしまう。
いいや『流麗なる誓い』は,デヴィッド・サンボーンの他のソロ・アルバム以上に,デヴィッド・サンボーンを感じてしまう。
『流麗なる誓い』からは,POPを演奏する“サンボーン節”が聴こえてくる。ロックを演奏する“サンボーン節”が聴こえてくる。AORを演奏する“サンボーン節”が聴こえてくる。
そう。ジャンルなんて関係ない。何を吹いてもデヴィッド・サンボーンの個性がメインで聴こえてくるのだ。

つまり,管理人が「本田雅人の中の本田雅人」を一番感じるのは「本田バンドで演奏する本田雅人」である。
本田雅人がアルバムに合わせて曲に合わせて,つまり自分が一番生きる仕方で選んだサポートと組んだ録音よりも,ガッツリと音をブツけ,被せて重ねてユニゾンしている,バンドのフロントとして演奏した時の本田雅人に一番「THE 本田雅人」を感じてしまうのと同じ…。
うん。本当に好きなのはマーカス・ミラーと組んだ,ファンキーでフュージョン・サックスの“泣きのサンボーン”なので『流麗なる誓い』をデヴィッド・サンボーンの愛聴盤として挙げるつもりはない。
でも,通常より出番の少ない“挿し色”的でワン・ポイントなアルト・サックスが案外好きなんだよなぁ…。
でも,曲の盛り上がりでアクセントをつけさせたら“世界一”のデヴィッド・サンボーンが案外好きなんだよなぁ…。
願わくば「デヴィッド・サンボーン・バンド」名義でもう1枚,聴いてみたかったなぁ…。
01. PROMISE ME THE MOON
02. BENJAMIN
03. STRANGER'S ARMS
04. HEART LAKE
05. THE REV.
06. WE FOOL OURSELVES
07. MORNING SALSA
08. THE LEGEND OF CHEOPS
(ワーナー・ブラザーズ/WARNER BROTHERS 1977年発売/WPCR-28020)
(ライナーノーツ/熊谷美広)
(ライナーノーツ/熊谷美広)