HEART TO HEART-1 アルトサックス奏者足るもの,絶対に避けて通ることのできない「2人の巨匠」がいる。ジャズを志す者にとってのチャーリ・パーカーフュージョンを志す者にとってのデヴィッド・サンボーンである。

 ジャズサックスを吹こうと思えば,どうしてもチャーリ・パーカーに似てしまうし,フュージョンサックスを吹こうと思えば,どうしてもデヴィッド・サンボーンに似てしまう。
 チャーリ・パーカーからいかに離れられるか,デヴィッド・サンボーンからどうやったら逃れられるか,これがプロのアルトサックス奏者に課せられた“宿命”となっている。

( 注: デヴィッド・サンボーンは『HEART TO HEART』で客演も務めた「ギル・エヴァンス楽団」在籍中に名を挙げたジャズ畑出身のジャズメン。なのにデヴィッド・サンボーンにはチャーリ・パーカーの影響が感じられないのが「新巨匠」の証し )

 そんな「巨匠」デヴィッド・サンボーンの「孤高の個性」は,一夜にて完成されたわけではなかった。愛するがゆえの暴言を記せば『TAKING OFF』『SANBORN』『PROMISE ME THE MOON』までのデヴィッド・サンボーンは,流行りのファッションみたいなフュージョンであった。
 「デヴィッド・サンボーンを聴いている」=「カッコイイ自分」を気取っているようなものだった。

 『PROMISE ME THE MOON』のリリースを終えて,デヴィッド・サンボーンのレギュラー・バンドは解散した。
 ソロ活動に専念するにあたり,流行で終わらないための「試行錯誤」を重ねたのだろう。“売れ線”にどっぷりと浸かりながらも,ソロ・アーティストとしての「自分の音楽」を真面目に追及したのだろう。
 『HEART TO HEART』(以下『ハート・トゥ・ハート』)は「お洒落なBGM」では終わらない。カフェで読書の「ながら聞き」などできやしない。WOWWOWWOO。

 『ハート・トゥ・ハート』を聴いた瞬間,管理人の背筋を“パーカー・ショック”ならぬ“サンボーン・ショック”が突き抜けた。
 『ハート・トゥ・ハート』で,ついに管理人の大好きなデヴィッド・サンボーンが登場してきた。そう。『ハート・トゥ・ハート』で,デヴィッド・サンボーンの「孤高の個性」=様々な情感を多彩に醸し出した“泣きのサンボーン”が完成されていたのだ。

 ミディアム・ナンバーやスロー・バラードだけでなく,ファンキーグルーヴにも乗っかりツッカカル,あの「メタルの音色」の“サンボーン節”が,どうにもこうにも耳について,一度聴いたら頭から離れなくなる。

HEART TO HEART-2 「デヴィッド・サンボーン・バンド」解散後の特権であるが『ハート・トゥ・ハート』のベーシック・トラックは,スタッフからエレピリチャード・ティードラムスティーヴ・ガッドトランペットランディ・ブレッカーテナーサックスマイケル・ブレッカーによるブレッカー・ブラザーズピアノドン・グロルニックパーカッションラルフ・マクドナルドベースアンソニー・ジャクソンヴァイヴマイク・マイニエリギターハイラム・ブロックデヴィッド・スピノザ等,フュージョン界の精鋭たちが完璧な演奏とアレンジで作り上げた“極上サウンド”!

 そこへソウルフルでエモーショナルでハートフルに“歌う”デヴィッド・サンボーンの「直球すぎる」アルトサックスが流れる瞬間の“恍惚感”が世界一!
 「スーパー・スター」デヴィッド・サンボーンアルトソロに入ると同時に,音場の空気が変わるのが実感できる。

 これだ,これなんだ! “サンボーン・キッズ”が憧れる“泣きのブロー”が『ハート・トゥ・ハート』で,急激に鳴りまくっている!

 『ハート・トゥ・ハート』から「永遠のスーパー・ヒーロー」デヴィッド・サンボーンの快進撃が始まった!

  01. SOLO
  02. SHORT VISIT
  03. THEME FROM “LOVE IS NOT ENOUGH”
  04. LOTUS BLOSSOM
  05. HEBA
  06. SUNRISE GOSPEL
  07. ANYWHERE I WANDER

(ワーナー・ブラザーズ/WARNER BROTHERS 1978年発売/WPCP-3550)
(ライナーノーツ/青木啓)

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