STRAIGHT TO THE HEART-1 前回の『BACKSTREET批評で書いたのだが『STRAIGHT TO THE HEART』(以下『ストレイト・トゥ・ザ・ハート』)を,デヴィッド・サンボーンの“総決算”とする世評は間違いである。

 そう。ノリノリで大盛り上がりの『ストレイト・トゥ・ザ・ハート』は,従来の“メローサンボーン”の「集大成」などではなく,新たなる「サンボーン伝説」の始まりを告げるライブ盤であった。
 『HIDEAWAY』寄りではなく『A CHANGE OF HEART』『CLOSE−UP』へと続くデヴィッド・サンボーン「絶頂期」の幕開けを告げるライブ盤なのである。

 『ストレイト・トゥ・ザ・ハート』を“総決算”だと語るサンボーン・ファンは選曲を見てのことだろう。確かに『ストレイト・トゥ・ザ・ハート』は,大人気ヒット・パレード集のライブ盤である。
 しかし『ストレイト・トゥ・ザ・ハート』で披露された新アレンジは,ただただ“FUNKY”!

 ついに『ストレイト・トゥ・ザ・ハート』で“ファンキー・サンボーン”の本質が解放されてしまった! マーカス・ミラーに“ファンキー・サンボーン”の「蛇口をひねられてしまった」!
 ファンキー&ダンサブルで大人気ヒット・パレード集の“上塗り”完了! もはやスタジオ盤のオリジナル・バージョンなど聞かなくてもよい。熱狂的なサンボーン・ファンにそう思い込ませてしまう「伝説」のライブ盤に「頭パッカーン」!

 この全ては“天才”マーカス・ミラーの大仕事である。哀愁のアルトを“白いファンクネス”に乗せてしまっている。
 そう。リッキー・ピーターソンが“黒いファンクネス”ならマーカス・ミラーは“白”。白の理由はマーカス・ミラーの“冷静な”音楽眼にある。
 デヴィッド・サンボーンの“緩急自在のアドリブ”をファンキーでタメの効いたボトムで「理路整然」と固めている。

 【HIDEAWAY】と【RUN FOR COVER】でのマーカス・ミラーベース・ソロは,楽曲をリードするテクニカルなベース・ソロ
 マーカス・ミラーが本気を出せば,現代の“超絶系”ベーシストも“お顔真っ青”なパッツンパッツンの早弾きにして,いつしか「起承転結」なサビが仕掛けられていることに気付いてしまう。超カッコイイ!
 世の「ベース小僧」にこぞってコピーされてきた2フィンガーからの“チョッパーの嵐”に驚喜乱舞! 「パンチラ野郎」のマーカス・ミラーがついに見せた「パンモロ」に大興奮!

 そうして,ここからが管理人が書きたいマーカス・ミラーの“天才”なのだが,あんなに激しいベース・ソロを弾いている間でも,ドラムのタムやギターのカッティングを注意深く聴いていると思える節がある。マーカス・ミラーは「起承転結」のベース・ソロを構築しながらも,常に他のメンバーとの音楽的な調和を忘れてはいない。
 いや〜,凄いぞマーカスマーカス・ミラーが凄すぎる〜!

 大バラードの【STRAIGHT TO THE HEART】におけるマーカス・ミラーベース・ラインを耳で追いかけてほしい。
 序盤はデヴィッド・サンボーンアルトサックスをシンプルのサポートしているだけであるが,デヴィッド・サンボーンが熱くなると同時にマーカス・ミラーチョッパーを繰り出してくる。
 バラードに“煽る”チョッパーがこんなにも合うなんて実にCOOL! デヴィッド・サンボーンの良さが格段と引き立てられた中盤のリフがGROOVY! バラードなのに相当に熱い!

STRAIGHT TO THE HEART-2 ズバリ『ストレイト・トゥ・ザ・ハート』でのマーカス・ミラーベースは「スーパー・チョッパーベーシスト」以上に「プロデューサーのベース・サウンド」として響いている。

 “ファンキー・サンボーン”としての,新たなる「サンボーン伝説」はマーカス・ミラーなしでは成立しない。マーカス・ミラーの不在など考えられない。
 ゆえに(ボブ・ジェームスと共演した『DOUBLE VISION』があるにはあるが)次作『A CHANGE OF HEART』のリリースまでに3年4か月。この空白の理由はマイルス・デイビスによるマーカス・ミラーの「引き抜き」期間そのまんまである。

 ズバリ『TUTU』におけるマイルス・デイビスマーカス・ミラーへの「おんぶにだっこ」は『ストレイト・トゥ・ザ・ハート』の「副産物」。
 マイルス・デイビスの目に留まった『ストレイト・トゥ・ザ・ハート』のマーカス・ミラーは『WE WANT MILES』『STAR PEOPLE』の頃の“最強チョッパー・ベーシスト”していたマーカス・ミラーではなかった。
 “天才”サウンド・クリエイターとしてのマーカス・ミラーなのである。

 それにしてもデヴィッド・サンボーン・クラスのビッグネームのライブ盤が『ストレイト・トゥ・ザ・ハート』1枚のみとはおかしくないのか? “ファンキー・サンボーン”期のライブであれば,最高レベルの音源がゴロゴロしているはずでしょうに…。

 「SELECT LIVE UNDER THE SKY」の88年,90年,91年はマーカス・ミラー名義,92年で計4枚。ワーナーさん。

  01. HIDEAWAY
  02. STRAIGHT TO THE HEART
  03. RUN FOR COVER
  04. SMILE
  05. LISA
  06. LOVE & HAPPINESS
  07. LOTUS BLOSSOM
  08. ONE HUNDRED WAYS

(ワーナー・ブラザーズ/WARNER BROTHERS 1984年発売/WPCR-3563)
(ライナーノーツ/松下佳男,谷頭康夫)

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