
“最高傑作”『CLOSE−UP』でデヴィッド・サンボーンは“燃え尽きた”のだと思う。やりたいことを全部やり尽くし,金も名誉も手に入れて,次なるモチベーションが見つからなかったのだと思う。
そこでデヴィッド・サンボーンはワーナー・ブラザーズを辞めて「自分探し」の旅に出た。実に3年間も沈黙した。“サンボーン・キッズ”としては待つのが辛かった。置き土産のような『CLOSE−UP』をよく聴いていたよなぁ。
そうして,ついに発表された『ANOTHER HAND』(以下『アナザー・ハンド』)は,デヴィッド・サンボーン初のジャズ・アルバム。
コマーシャルな世界から離れ,内奥の自分を確認するために旅に出たデヴィッド・サンボーンが,自分のルーツであるジャズ・アルバムを携えて帰ってきた。
これまで「好きだ,好きだ」と公言していたけれども,管理人はデヴィッド・サンボーンをみくびっていたのだと思う。こんなにもジャズに“映える”アルト・サックスを吹けるとは思っていなかった。“ジャズメン”デヴィッド・サンボーンを男として見直したのだった。
へぇ〜,ジャズを演るとこんなにも変わるものなのか? これが管理人の『アナザー・ハンド』の第一印象である。だからタイトルが『アナザー・ハンド』になったのだ…。
ジャズと言っても『アナザー・ハンド』は,4ビートの純ジャズ・スタンダード集ではない。激しいアドリブの応酬系でも,フリー・ジャズでもない。
デヴィッド・サンボーン・オリジナルのコンテンポラリー・ジャズは,なんと!ECMから発売されてもおかしくないビル・フリゼール,チャーリー・ヘイデン,ジャック・デジョネット等の「重鎮」が集まった“COOLな”ジャズ・ブルースであった。
そう。デヴィッド・サンボーンのルーツはジャズだけでなくR&B。デヴィッド・サンボーンがジャズを演ろうとすると“ブルース魂”が出てきてしまう。
一般にジャズを演った『アナザー・ハンド』を異色盤と言われているが,管理人にとってデヴィッド・サンボーンの異色盤は『ささやくシルエット』と『パールズ』の2枚であって『アナザー・ハンド』は,後の『アップフロント』『ヒアセイ』へと続く「ジャズ・ファンク路線」への“伏線”となっている。

『アナザー・ハンド』のハイライトはチャーリー・ヘイデンの【FIRST SONG】。パット・メセニーやゴンサロ・ルバルカバを魅了した,この名曲の最高バージョンがデヴィッド・サンボーンの【FIRST SONG】。
ビル・フリゼールのギター・サウンドは,パット・メセニーとは一味違うビターなギター。この浮遊感あるビル・フリゼールと相まみれるデヴィッド・サンボーンのトーンを押さえた“泣きのブロー”が大好物なのである。
ずっとぼけたテンションでジャズっぽくアウトしまくる『アナザー・ハンド』のアルト・サックスは,サンボーン嫌いのジャズ・ファンにも,ジャズ嫌いのサンボーン・ファンにとっても必聴盤なのですよっ。
…と今振り返れば余裕の精神状態で『アナザー・ハンド』批評を書いていますが『アナザー・ハンド』発売時点でのデヴィッド・サンボーンの“激変”には,流石の管理人も慌ててしまいました。あのままジャズのメインストリームに突き進むことへの期待も当然ありましたが,期待以上に恐れと不安が強かったので『アップフロント』での“アゲアゲ・サンボーン”の登場に,ほっと胸を撫で下ろしたことを思い出します。
その意味でデヴィッド・サンボーンの『アナザー・ハンド』は本田雅人の『ILLUSION』。これが『アナザー・ハンド』批評の結論で〜す。
01. First song
02. moniCa jane
03. come To Me, nina
04. hObbies
05. another Hand
06. Jesus
07. weirD from one step Beyond
08. CEE
09. medley:
prayers for Charlie from the devil at four O'clock
The lonely from the Twilight zone
08. dukes & counts
(エレクトラ/ELEKTRA 1991年発売/WPCR-27468)
(ライナーノーツ/松下佳男)
(ライナーノーツ/松下佳男)