
それができるのも,絶対的な個性“泣きのブロー”を持つデヴィッド・サンボーンだからであろう。
そんなデヴィッド・サンボーンが生涯に2枚だけ,前作と同じコンセプトの続編を制作したことがある。それが“ファンキー・サンボーン”の『A CHANGE OF HEART』を踏襲した『CLOSE−UP』と“アゲアゲ・サンボーン”の『UPFRONT』を踏襲した『HEARSAY』(以下『ヒアセイ』)である。
この2枚の続編=『CLOSE−UP』と『ヒアセイ』の完成度が著しく高い!
元ネタである『A CHANGE OF HEART』と『UPFRONT』が,それぞれセールス50万枚以上のゴールド・レコードを獲得した後の「これぞ“ファンキー・サンボーン”の完成版」「これぞ“アゲアゲ・サンボーン”の決定版」的な名演集なのである。素晴らしい。
『ヒアセイ』にあって『UPFRONT』ないもの。それは「音場の拡がり」であろう。
『UPFRONT』の“泥臭く土臭い”ジャズ・ファンク路線は,本来のマーカス・ミラーのサウンド・カラーではなかったが『ヒアセイ』の見事なトータル・サウンドの構築力に「デヴィッド・サンボーン&マーカス・ミラー」の“復活”を強く感じてしまった。
そう。『UPFRONT』の魅力が“緩さ”にあったとすれば『ヒアセイ』の魅力は“カッコ良さ”。『ヒアセイ』のデヴィッド・サンボーンが“吹きまくり”で超カッコイイ〜!
ファンク・グルーヴに乗って「俺が主役だ」と主張するデヴィッド・サンボーンのアルト・サックスが先行し,続編ゆえに追随のレスポンスが上がったマーカス・ミラーが完璧にサポートしてみせる!
いいや,実際にはマーカス・ミラーが,先の先へと手を打ってデヴィッド・サンボーンをファンク・グルーヴの「計算されたうねりのうず」へと誘い込んでいる!
途中でハラハラ・ドキドキさせるリッキー・ピーターソンのオルガンによる演出も,最後の最後は「丸くまとまる安心感」が“痛快”である。

『ヒアセイ』のサウンド・デザインに,どんなにどっぷりと浸かりきっても“目玉”であるファンク・グルーヴにやられるのは腰だけ。上半身はいたって“COOL”。
“アゲアゲ・サンボーン”の“感情大爆発”をこんなにも冷静に楽しめるアルバムは『ヒアセイ』をおいて他にはない。
「デヴィッド・サンボーン&マーカス・ミラー」の比類のないバランス感覚。『ヒアセイ』で極まりけり!
01. Savanna
02. The Long Goodbye
03. Little Face
04. Got To Give It Up
05. Jaws
06. Mirage
07. Big Foot
08. Back To Memphis
09. Ojiji
10. Georgia On My Mind
(エレクトラ/ELEKTRA 1994年発売/WPCR-12)
(ライナーノーツ/松下佳男)
(ライナーノーツ/松下佳男)