
しかし,諸手を挙げて喜ぶことなどできない。『SONGS FROM THE NIGHT BEFORE』(以下『ソングス・フロム・ザ・ナイト・ビフォア』)について語ることは好きではない。
なぜなら『ソングス・フロム・ザ・ナイト・ビフォア』はファンキー・チューンのオンパレードなのだが,聞いていても楽しくない。デヴィッド・サンボーンの様子がどうもおかしい。一言で言えば暗いのだ。
ノリ一発というよりも渋いファンキー路線であって,思索的な演奏である。デヴィッド・サンボーンの内奥の気持ちが耳に入ってこない。もしかしてスランプなのか? あの大作=『パールズ』で調子を崩してしまったのか?
まぁ『ソングス・フロム・ザ・ナイト・ビフォア』でデヴィッド・サンボーンが演ろうとした試みは容易に想像がつく。『ソングス・フロム・ザ・ナイト・ビフォア』の狙いは“COOL”なるファンキーであろう。
きっとデヴィッド・サンボーンは若者受けする“アゲアゲ”の対極として,アダルトなファンキー路線に進出したかったのだと思う。「枯れ」のデヴィッド・サンボーンにも大きな魅力があることを“サンボーン・キッズ”は認めている。
ただし,腹心の音楽監督=リッキー・ピーターソンが復活させた“ファンキー・サンボーン”は,かっての面影が残らないくらいまで,根こそぎ洗練されている。
“アゲアゲ”からアダルトへ向けて削るべきマテリアルの中で,削るべきではないデヴィッド・サンボーン特有の“旨味”まで削ってしまっている。その結果,新しいアプローチなのに,どこにでもあるようなファンク・フュージョンになってしまっている。
この点でついに“蜜月関係”を解消したマーカス・ミラーの不在が痛い。デヴィッド・サンボーンの希望とはいえ,リッキー・ピーターソンの打ち込みビートはドライすぎて軽く感じる。

『ソングス・フロム・ザ・ナイト・ビフォア』の黄昏というかセピア色というか,青春を謳歌した後の“ファンキー・サンボーン”のロスタイムの印象で,ついつい淋しさを覚えてしまう…。
もはや黄金期のように,全力で“ファンキー・サンボーン”できないことを自覚してのモデル・チェンジなのだろう…。淋しい…。
そう。『ソングス・フロム・ザ・ナイト・ビフォア』の真実とは,デヴィッド・サンボーンの「ヴィンテージ・ファンク」なのである。
01. RELATIVITY
02. D.S.P.
03. RIKKE
04. LISTEN HERE
05. SPOOKY
06. MISSING YOU
07. RUMPLESTILSKIN
08. INFANT EYES
09. SOUTHERN EXPOSURE
(エレクトラ/ELEKTRA 1996年発売/WPCR-858)
(ライナーノーツ/工藤由美)
(ライナーノーツ/工藤由美)