
推測するに,その要因とは本来「親分」であるデヴィッド・サンボーンと本来「裏方」であるマーカス・ミラーの関係性が「デヴィッド・サンボーン&マーカス・ミラー」から「マーカス・ミラー&デヴィッド・サンボーン」へと「マーカス上位」へと変化したからである。
そう。『インサイド』では「デヴィッド・サンボーン&マーカス・ミラー」の黄金のバランスが崩壊している。
デヴィッド・サンボーン名義のソロ・アルバムで,過去にここまでマーカス・ミラーが前面に出たことはなかったし,デヴィッド・サンボーンはというと“ちょい役”のように登場するばかりである。
まっ,その“ちょい役”での存在感が半端ないのだけれども…。ここがマーカス・ミラーの“狙い”だったのかもしれないけども…。
“ちょい役”デヴィッド・サンボーンのソロ・アルバム=『インサイド』の参加メンバーは,レギュラー陣であるマーカス・ミラー,リッキー・ピーターソンに加えて,テナー・サックスのマイケル・ブレッカー,トランペットのウォレス・ルーニー,キーボードのギル・ゴールドスタイン,ギターのディーン・ブラウンとビル・フリゼール,ドラムのジーン・レイク,パーカッションのドン・アライアス,そうして!ヴォーカルのカサンドラ・ウィルソン,エリック・ベネイ,レイラ・ハサウェイ,スティング!
この超豪華メンバーから発せられる,深く沈み込んだ“ダーク・ビューティー”なR&Bなど一体誰が想像できようか?
実際には“先手を打って”アルバム・タイトル=『インサイド』が暗示していたのだが,音楽のベクトルが「内へ内へ」と向かっている。ずしりと重い音楽パンチング。
主役であるアルト・サックスのバックで,マーカス・ミラーのフレットレス・ベースが哀しく響き,バス・クラリネットの渋味が空間を支配するマーカス・ミラー一流のストイックな展開が続いてゆく。
地味派手な「マーカス・ミラー・フィーチャリング“シリアス”サンボーン」の登場である。

“天才”マーカス・ミラーの大名盤だと『インサイド』を褒めつつも,マーカス・ミラーがデヴィッド・サンボーンの「内面を掘った」JAZZYでブラックな“シリアス・サンボーン”の“泣きのブロー”は今までのイメージと違うんだよなぁ。
デヴィッド・サンボーンにはストリートにとどまっていてほしかった!
01. Corners (for Herbie)
02. Daydreaming
03. Trance
04. Brother Ray
05. Lisa
06. When I'm With You
07. Naked Moon
08. Cane
09. Ain't No Sunshine
10. Miss You
(エレクトラ/ELEKTRA 1999年発売/AMCY-2967)
(ライナーノーツ/佐藤英輔)
(ライナーノーツ/佐藤英輔)
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