
「名門=ヴァーヴ」から「老舗=デッカ」への電撃移籍。馴染みのメンバーを引き連れての移籍であるが,コンテンポラリー・ジャズ路線は,しっかりと『TIMEAGAIN』『CLOSER』で終了させて『ヒア・アンド・ゴーン』では,同じメンバーでも「一味違う」新しい音楽の旅へと繰り出している。
ズバリ,デッカのキーワードは“ブラス”である。トランペット,テナー・サックス,バリトン・サックス,テナー・トロンボーン,バス・クラリネット…。
ついにブラス・バンドが投入されたデヴィッド・サンボーン流の“ブラス・ロック”なのである。だからゲストにエリック・クラプトン!
そうして『ヒア・アンド・ゴーン』のキーワードは“レイ・チャールズ・トリビュート”。その実,レイ・チャールズ・バンドのアルト・サックス・プレイヤー“ハンク・クロフォード・トリビュート”。
そう。ハンク・クロフォードのソウル・ジャズを鳴らすための“ブラス・ロック”アルバムなのである。
ジャズ界随一であろう,ギターのラッセル・マローン,ベースのクリスチャン・マクブライト,ドラムのスティーヴ・ガットによるエモーショナルにして絶対安定のリズムに乗ったブラス隊が,デヴィッド・サンボーンを前面に押し出していく。
ブラス・バンドの“主役を張った”デヴィッド・サンボーンが絶好調。バックの細かな音の変化を見逃さず,拾っては膨らませ&拾っては膨らませできたのも,じっくりとブラス隊と向き合った賜物であろう。
いいや,過去にデヴィッド・サンボーン自身がブラス・バンドの一員として活躍したキャリアからくる“ソロイスト”へのこだわりを感じる。
結構ストイックなアルト・ソロを吹いていて,聞き流したいのに聞き流せない“サンボーン節”に「ヒイヒイ」である。

新作が出れば惰性で購入する。CDの代金は“サンボーン・キッズ”としてのお布施のようなものである。内容など確認することもなく,死ぬまで新作を買い続けることだろう。
だから『ヒア・アンド・ゴーン』を聴いて,これが新しい“サンボーン節”なんだ。そう感じられた自分が,ちょっぴりうれしかった。
もはやデヴィッド・サンボーンは,いい悪い,では判断できない“レジェンド”なのである。
01. st. louis blues
02. brother ray (featuring derek trucks)
03. i'm gonna move to the outskirts of town
04. basin street blues
05. stoney lonesome
06. i believe to my soul (featuring joss stone)
07. what will i tell my heart
08. please send me someone to love
09. i've got news for you (featuring sam moore)
(デッカ/DECCA 2008年発売/UCCU-1179)
(ライナーノーツ/成田正)
(ライナーノーツ/成田正)