ONLY EVERYTHING-1 “ニコイチ”のデヴィッド・サンボーンにふさわしく“レイ・チャールズトリビュート”の『HERE & GONE』の続編『ONLY EVERYTHING』(以下『オンリー・エヴリシング』)も“ハンク・クロフォードトリビュート”。

 所謂,デヴィッド・サンボーンの“ニコイチ”と来れば,前作の完成度を高めたものが多かったが,今回の『オンリー・エヴリシング』はいつもの続編ではない。
 『HERE & GONE』のレビジョンアップ,マイナーチェンジではなく,メジャーアップグレートでのバージョンアップ。同じブラスでも“ブラス・ロック”ではなく,R&Bにブラスが加えられた“ブルース”なのである。

 “ブルース”から出発して,カントリー,R&B,ジャズフュージョンファンクで頂点を極めたデヴィッド・サンボーンの「一周回って」演奏するオルガントリオが渋い。いい音だしている。
 ついにデヴィッド・サンボーンキャリアの初頭へ,いいや,デビュー以前の「サックス少年」にまで“原点回帰”。

 デヴィッド・サンボーンサックスを始めたエピソードのは小児麻痺のリハビリのためだが,デヴィッド・サンボーンがプロを志すようになったきっかけは,レイ・チャールズ・バンドでサックスを吹いていたハンク・クロフォードへの“憧れ”にあった。

 ただし,デヴィッド・サンボーンハンク・クロフォードのコピーは絶対にしない。と言うかレイ・チャールズの存在なしに,ハンク・クロフォードに近づくことなど出来やしない。
 ズバリ,デヴィッド・サンボーンが“憧れた”ハンク・クロフォードとは「レイ・チャールズがいてナンボ」のサックス奏者。

 『オンリー・エヴリシング』でデヴィッド・サンボーンが“仮想”レイ・チャールズに仕立て上げたは,ヴォーカルジョス・ストーンジェイムス・テイラーであり,ハモンドオルガンジョーイ・デフランセスコがキーマンである。
 ジョス・ストーンジェイムス・テイラーが歌い,ジョーイ・デフランセスコGROOVEする,レイ・チャールズばりの“ブルース”に触れて,ついに念願の“ハンク・クロフォード越え”を成し遂げている。

ONLY EVERYTHING-2 『オンリー・エヴリシング』はデヴィッド・サンボーンにとって「特別な意味を持つ」1枚になったのだと思う。ある意味,生涯の目標を初めて達成できたアルバムなのだから…。

 4ビート基調のオーセンティックなジャズをベースに,クレバーな“ブルース”が見事に融合している『オンリー・エヴリシング』。
 ジャズフュージョン・ファンの求めるデヴィッド・サンボーンのアルバムではないかもしれない。しかし,オールドスクールなジャズを演奏するデヴィッド・サンボーンを聴き込むのも,長年の“サンボーン・キッズ”にとってはオツである。

  01. THE PEEPER
  02. ONLY EVERYTHING (FOR GENEVIEVE)
  03. HARD TIMES
  04. LET THE GOOD TIMES ROLL
  05. BABY WON'T YOU PLEASE COME HOME
  06. YOU'VE CHANGED
  07. HALLELUJAH, I LOVE HER SO
  08. BLUES IN THE NIGHT
  09. SOMETIMES I FEEL LIKE A MOTHERLESS CHILD
  10. DAVENPORT BLUES

(デッカ/DECCA 2010年発売/UCCU-1262)
(ライナーノーツ/松下佳男)

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