
そう。自らの意思ではなく「追い出された」本田雅人と,自らの意思で「飛び出していった」和泉宏隆のイメージがある。事の真相は定かではない(ということにしておこう)…。
だから和泉宏隆の場合,そこまでして演り始めたピアノ・トリオなのに…。周りに迷惑をかけてまで始めたピアノ・トリオなのに…。これ位の出来だったら何で…。
そんな思いがあったから,個人的に厳しい態度で和泉宏隆の新作を評価している自分がいた。和泉さん,心無い対応を本当にごめんなさい。
しかし,そんな謝罪を必要としない大満足なアルバムが出た。和泉宏隆のピアノ・トリオによる『BEYOND THE RIVER』(以下『ビヨンド・ザ・リバー』)である。
ついに好き嫌いを超えた部分で和泉宏隆の名盤に出会えた「喜び」を感じた。「星4つ」で評価していた『LIGHTS IN A DISTANCE』と『A SQUARE SONG BOOK』には,それでも多少,贔屓目の部分があったように思う。
ただし,名盤『ビヨンド・ザ・リバー』にしても,管理人が和泉宏隆に当初期待していたピアノ・トリオ・アルバムとは随分違っていた。
T−スクェアで得た「栄光と名声と高収入」の全てを振り捨ててまで独立した和泉宏隆に,例えば年棒20億円の提示を蹴ってまで広島東洋カープに復帰した黒田博樹の「男気」のようなものを期待していた。
一から武者修行に出掛け,一日10時間ピアノを練習し“孤高の人”として,5年後にジャズ・シーンに華々しく再登場してくるような和泉宏隆の姿を想像していた。ここで再び和泉さん,無茶苦茶な想像を本当にごめんなさい。
ズバリ『ビヨンド・ザ・リバー』で登場した“NEW・和泉宏隆”とは,実に柔らかな“ヒーリング・ピアニスト”であった。
T−スクェア脱退直後の「気負い」など全く感じられない。それはそれは“清らかなピアノ”が響かせていく。今聴いているピアニストが誰なのかを意識することはない。ただただ気持ち良いピアノの音が流れていく。

優しく柔らかくて,流れるようで情緒的で,それでいて一本の筋が通っていて…。目を閉じると白銀の世界。あぁ,切ないほどに美しすぎます。
これには本当に驚いた。和泉宏隆が弾きたかったピアノが,スーッと身体の奥に沁み渡る…。
和泉宏隆が目指していたのはメリハリ命の“ジャズ・ピアニスト”ではなかった。浮かんでは消えて無くなるピアノのBGMに,自らの我を押し殺した“NEW・和泉宏隆”の真実を見る。
01. Heart Land
02. Northern Island Breeze
03. GladioluS
04. Moon Palace
05. Eyes Of Flora
06. Prelude
07. Snow Flower
08. Spiral Fusion
09. Golden Land
10. Time Remembered
(アンドフォレスト・ミュージック/&FOREST MUSIC 2008年発売/NNCJ-1014)