
つまり大坂昌彦こそが,世界的に評価の高い神保彰や森山威男を差し置いて,超大物「日本一のジャズ・ドラマー」なのである。
大坂昌彦の何がそんなに凄いのか? 管理人なら“音楽的なドラマー”だから,と答えよう。
『WALKIN’ DOWN LEXINGTON』(以下『ウォーキン・ダウン・レキシントン』)は,そんな“音楽的なドラマー”としての資質が素直に表現された名盤である。
ズバリ『ウォーキン・ダウン・レキシントン』の聴き所とは,大坂昌彦の確かなドラミングとメロディー・メイカーの才!
「日本のキース・ジャレット・トリオ」=「マサちゃんズのドラマー」にして「スイングジャーナル誌読者投票ドラム部門」14年連続第1位という“音楽的なドラマー”大坂昌彦のマルチな才能と持ち味が遺憾なく記録されたアルバムだと思う。
『ウォーキン・ダウン・レキシントン』の基本は,ドラムの大坂昌彦,ピアノのマルギュー・ミラー,ベースのクリスチャン・マクドナルドとのピアノ・トリオ。
この超豪華ピアノ・トリオを“回している”のが大坂昌彦の変化に富んだドラミングである。
ドラマーのリーダー・アルバムゆえ,どこまでドラムが前面に出るか,を考えながらの演奏になるのだろうが,バラエティに富んだ楽曲に合わせてコントロールされた「音楽的」なアクセントが多彩で,どんな曲調でも大坂昌彦のドラムが「音楽のど真ん中」にドンと出る。
それ位に大立ち回りのドラムなのに『ウォーキン・ダウン・レキシントン』の印象とは,大坂昌彦のドラムではなく,大坂昌彦オリジナルのメロディーの方である。
『ウォーキン・ダウン・レキシントン』にゲスト参加したのは,トランペットとフリューゲルホーンのダスコ・ゴイコビッチ,アルト・サックスのフィル・ウッズ,ソプラノ・サックスとアルト・サックスのマーク・グロス,ボーカルのキム・ナザリアンという,超ビッグなジャズメンたち。
マルギュー・ミラー,クリスチャン・マクドナルドも含めて,ジャズメン足るもの,こんなにも凄腕のメンバーを与えられたら,パーっと打ち上げ花火的な演奏をしたくなるものだろうが大坂昌彦はそうしない。

ダスコ・ゴイコビッチとフィル・ウッズを主にボーカル・ナンバーの間奏として贅沢に使う意味も理解できるというものだろう。
要するに『ウォーキン・ダウン・レキシントン』とは,大坂昌彦の「趣味の良さ」と「トータル・ミュージシャン」としての資質が全面的に記録されたアルバムであろう。
ただし“音楽的なドラマー”大坂昌彦を評価しているからこそ,個人的に『ウォーキン・ダウン・レキシントン』に5つ星はあげられない。間違いなく安心して聴けるアルバムではあるが,しかしこれで満足できるかとなると首をひねってしまう。
バンドの一番後ろで音楽が創造される瞬間を聴いている日本で一番人気のドラマーなのだから,もっともっとその場その場で感じたことをドラムとリズムで表現してほしい。「スイングジャーナル誌読者投票ドラム部門」14年連続第1位になっているのはファンが大坂昌彦のドラムを評価してのこと。書き譜のメロディー・メイカーぶりは是非とも即興のドラミングで表現してほしい。
管理人を含めてファンが大坂昌彦に求めているのは,ただ1つ「マサちゃんズのドラマー」らしくドラミングでピアノ・トリオを歌わせること。
その意味で次はゲストなど要らない。シンプルに大坂昌彦のドラムが支配するマルギュー・ミラーとクリスチャン・マクドナルド組んだピアノ・トリオを聴いてみたいと思っている。
01. CHATTE TROIS COULEURS
02. WALKIN' DOWN LEXINGTON
03. THE RIVER FLOWS INTO THE NIGHT
04. CLOSE TO YOU
05. AN ENGLISHMAN IN NEW YORK
06. CHICK-A-DEE
07. ONCE UPON A SUMMERTIME
08. L-O-V-E
09. CIRCADIAN RHYTHM
10. UNCHAINED MELODY
MASAHIKO OSAKA : Drums
MULGREW MILLER : Piano
CHRISTIAN McBRIDE : Bass
DUSKO GOYKOVICH : Trumpet, Flugelhorn
PHIL WOODS : Alto Sax
MARK GROSS : Soprano Sax, Alto Sax
KIM NAZARIAN : Vocals
(キングレコード/KING RECORD 1998年発売/KICJ-351)
(ライナーノーツ/小川隆夫)
(ライナーノーツ/小川隆夫)
第一巻(詩1-41編)
秋吉敏子 『ジャスト・ビバップ』