
『サークル・ワルツ』のドン・フリードマンに,ビル・エヴァンスのピアノが“乗り移っている”。
出だしの数秒間で「エヴァンス派」だと分かってしまう,知的で繊細でリリシズムの音選び。胸を締めつけられるような美しいテーマ。一転して静かに自分の音を探りにいく展開。確かめるようにゆっくりと弾かれる和音の連鎖。ベースとドラムとの対等なインタープレイ…。
『サークル・ワルツ』のピアノを聴いて,ビル・エヴァンスのピアノを想起しないジャズ・ファンがいるとすれば,それこそ“モグリ”であろう。
仮にブラインド・テストを行なったとしたら,十中八九,ビル・エヴァンスと答えてしまう人が続出するだろう。
では,なぜにドン・フリードマンは公式に「エヴァンス派」を否定するのだろうか? それはドン・フリードマンがビル・エヴァンスに“先んじた点”があるという自負から来ているのだろう。
『サークル・ワルツ』のベーシストはチャック・イスラエル。そう。スコット・ラファロの“後釜”であるチャック・イスラエル“その人”である。
ここでスコット・ラファロについても補足しておくが,スコット・ラファロも元々はドン・フリードマン・トリオのレギューラー・ベーシストだったという,2代続けてかっさらいの因縁有。
そう。スコット・ラファロもチャック・イスラエルも,ビル・エヴァンスと共演したことで名声が高まっただけで,元々はドン・フリードマンに見出されたベーシストだった。
つまりドン・フリードマンが“先んじた”ジャズ・ピアノを“後出し”で完成させたのがビル・エヴァンス,という考え方もできる。
そう。ビル・エヴァンスのような演奏スタイルは「エヴァンス派」と称されるのではなく「フリードマン派」と称された可能性があったのだ。
だから似ている。似ていて当然。似ていてもしょうがない。ビル・エヴァンスもドン・フリードマンも同じ時代に活動していたわけだから,互いに意識したとしても意識しないとしても,現実には「互いが互いに影響を与え,影響を受けた」ジャズ・ピアニスト…。2人とも分類すると同じカテゴリーに属するジャズ・ピアニスト…。
さて『サークル・ワルツ』の評価であるが,仮にドン・フリードマンが『サークル・ワルツ』とは別にもう1枚の名盤を録音していれば,世間の目はビル・エヴァンスではなくドン・フリードマンに目を向けたと思うほどの大名盤である。個人的には“衝撃の1枚”にカウントしたい。

ビル・エヴァンスとドン・フリードマンは同じレーベルメイトなんだし,リバーサイド側も『サークル・ワルツ』を『ポートレイト・イン・ジャズ』『エクスプロレイションズ』『サンディ・アット・ザ・ビレッジ・バンガード』『ワルツ・フォー・デビイ』と抱き合わせて「リバーサイド5部作」として売り出したら良かったのに…。永遠のライバルではなくWIN&WINの関係になっていたはずなのに…。
唯一『サークル・ワルツ』の「リバーサイド5部作」を阻む理由はドラマーの違いであろう。後に弁護士に転身したピート・ラロカはさすがに構築的なドラミング。
ズバリ,ドラマーの違いはベーシストの違い以上に大きい。パーカッシブなポール・モチアンがいなければ,ビル・エヴァンス・トリオの「耽美主義」は成立しないのだ。
ビル・エヴァンスの凶暴性は「帝王亡き後の新帝王」ポール・モチアンでなければコントロールできやしない!
01. Circle Waltz
02. Sea's Breeze
03. I Hear a Rhapsody
04. In Your Own Sweet Way
05. Loves Parting
06. So in Love
07. Modes Pivoting
(リバーサイド/RIVERSIDE 1962年発売/VICJ-60025)
(ライナーノーツ/ジョー・ゴールドバーグ,野口久光)
(ライナーノーツ/ジョー・ゴールドバーグ,野口久光)
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