
『DEWDROPS』はテクニカルなインスト・メインではない。『DEWDROPS』のメインは歌ものである。ヴォーカルである。
そう。桜井哲夫がシャンバラで目指したのは『DEWDROPS』の“延長拡大バンド”だったと思う。『DEWDROPS』で完成させた“シティ系POPバンド”だったと思う。
『DEWDROPS』の基本はカシオペアの16ビートではなく非カシオペアの8ビート。しかもバリバリのチョッパー・チューンはラストの1曲のみ。中にはベースを弾いていない曲もある。男女掛け合いのヴォーカル・ナンバーや和太鼓と琴のヘンテコな曲がクセになる?
アルバムの方向性などはない。カシオペア・ファンが買いそうな内容ではない。いいんです。それでいいんです。
なぜならば『DEWDROPS』は,桜井哲夫が仕事としてではなく,全くの“個人的な趣味”で作ったアルバムなのだから…。
『DEWDROPS』のコンセプトは,自作のオリジナル曲を自分が弾いてもらいたい人に自由に弾いてもらう。
例えばサックスの伊東たけしとジェイク・H・コンセプションと高野正幹,ギターとシンセサイザーの鳥山雄司,ギターの和田アキラと松下誠と吉川忠英,キーボードの森村献と井上鑑,ピアノの橋本一子,ドラムの青山純と宮崎全弘,パーカッションの仙波清彦と浜口茂外也,トランペットの数原晋と林研一郎,トロンボーンの平内保夫,そしてヴォーカリストが楠木勇有行と堀口和男と山川恵津子と大野えりCINDYとMARVINとKUMI! 正に桜井哲夫の「100%趣味丸出し」なミュージシャン!
1986年にカシオペアはバンドの充電期間の一環として,メンバー全員のソロ・アルバムをリリースすることになった。
野呂一生の『SWEET SPHERE』。向谷実の『WELCOME TO THE MINORU’S LAND』。神保彰の『COTTON’』。桜井哲夫の『DEWDROPS』がそれである。
この4枚「揃い踏み」を聴き比べて,1人桜井哲夫の『DEWDROPS』だけが浮いて聴こえたことを覚えている。
桜井哲夫だけが,自分の得意技(超絶ベーシスト)を封印し,自分のカテゴラリー(フュージョンあるいはインストルメンタル)からも逸脱し“シティ系”を気取っていたが,当時は分からなかったその理由を今となっては理解できる。桜井哲夫の30年間をずっと追いかけてきたから理解できる。
とにかく今となっては『DEWDROPS』こそが,桜井哲夫のルーツ,桜井哲夫の全てであった,と断言できる!

“スーパー・ベーシスト”桜井哲夫が,こんなにも素直に表現していたなんて…。恥ずかしげもなく書いていたなんて…。
桜井哲夫は「無垢な男」だと思う。桜井哲夫は「真面目な男」だと思う。桜井哲夫の真価は「歌もの」に如実に表われるのである。
その実,ベース一本で生きていると思わせといて,それは仕事だからであって,素の桜井哲夫という男は一本の万年筆をベースに持ち替えて生きている。
これほどまでに「歌もの」が好きななのだから,いつの日かまたシャンバラをやってほしいと思う。『DEWDROPS』バンドをやってほしいと思う。心からそう思う。
01. REFRESH!
02. IN THE DISTANCE
03. NIGHT DEW
04. KIMONO
05. TENSION
06. EARTH CALLING SPACE
07. VENUS
08. JESTER'S DANCE
09. PROPHET VOYAGER
(ビクター/JVC 1986年発売/VDR-1181)
コメント