BYRD IN HAND-1 “最高傑作”『オフ・トゥ・ザ・レイシス』を軸として,一層細かな音楽表現を意識したハード・バップの名盤。それが『BYRD IN HAND』(以下『バード・イン・ハンド』)である。
 『バード・イン・ハンド』の“落ち着き払った”アレンジは,どことなく同じ3管フロント,アート・ファーマーベニー・ゴルソンカーティス・フラーによる「ジャズテット」をイメージしてしまう。

 ドナルド・バードは『バード・イン・ハンド』で,他とは一線を画す“知的なハード・バップ”を訴求していた。美メロと物悲しい音色の絶妙の組み合わせ1。すなわち3管フロントの再編となるテナーサックスの導入である。

 ドナルド・バードの音楽を聴くと,すぐに感じる丁寧に計算されたアンサンブルの妙。管楽器の中で一番高音域のトランペットと木管楽器の中で一番低音域のバリトンサックス。その中間のサックスアルトなのか? それともテナーなのか?

 基本的にはドナルド・バードが『バード・イン・ハンド』で下した選択は正しいと思う。3管フロントが最も輝くのはトランペットバリトンアルトではなくテナーの方だろう。
 チャーリー・ラウズテナーサックスが素晴らしい。マイナー調の曲想とチャーリー・ラウズの老練でダークな持ち味がズバリ。ペッパー・アダムスとの迫力あるユニゾンがきれいにまとめ上げられている。

 しかし“まろやかな渋みのトランペッタードナルド・バードの場合は「アルト OR テナー」の選択ではなく「ジャッキー・マクリーン OR チャーリー・ラウズ」の選択である。
 『オフ・トゥ・ザ・レイシス』の3管と『バード・イン・ハンド』の3管を聴き比べると,ドナルド・バードと相性がいいのはアルトサックスジャッキー・マクリーンの方であろう。

BYRD IN HAND-2 気合い一発系ながらも朴訥なジャッキー・マクリーンアルトサックスドナルド・バードの憂いを湛えたまろやかなトランペットの音色が寄り添うことで,全体の厚みを保ちながら物悲しさを滲ませるという相乗効果を発揮することにつながっている。
 『オフ・トゥ・ザ・レイシス』がジャッキー・マクリーンだし『フュエゴ』もジャッキー・マクリーンだし…。

 おおっと誤解のありませんように! 『バード・イン・ハンド』を『オフ・トゥ・ザ・レイシス』より劣るトーンで,チャーリー・ラウズジャッキー・マクリーンより劣るトーンで書いているが,10回中1回は『オフ・トゥ・ザ・レイシス』よりも『バード・イン・ハンド』が素晴らしい,と思う夜が来る!

 キレイ目ハード・バップの代表的な名盤として『バード・イン・ハンド』をお忘れなく…。

  01. WITCHCRAFT
  02. HERE AM I
  03. DEVIL WHIP
  04. BRONZE DANCE
  05. CLARION CALLS
  06. THE INJUNS

(ブルーノート/BLUE NOTE 1959年発売/TOCJ-9099)
(紙ジャケット仕様)
(ライナーノーツ/アイラ・ギトラー,小川隆夫)

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