
カシオペアとジンサクへの提供曲がここまでブラジルしてしまうとは! お見事です。MPBど真ん中です。
『カルタス・ド・ブラジル』のこの感覚はT−スクェアの『ヴォーカル・スクェア』を聴いた時と同じであって,インストのメロディー・ラインに歌詞が乗っても全く違和感がない。
…と言うよりも元はインストなのに,初めからヴォーカル・ナンバーとして作曲されていたかのような素晴らしい出来映えである。トータルの完成度からすれば『ヴォーカル・スクェア』以上であろう。
もしや櫻井哲夫の「ブラジル路線」はカシオペア在籍時から始まっていたのか? そう思ってオリジナル音源と聴き比べたりしたものだが,どちらも甲乙付け難い。
ズバリ『カルタス・ド・ブラジル』で初めて,櫻井哲夫の“歌心”に開眼してしまった。テクニカルなベースを弾きながらも,インストを演奏しながらも,櫻井哲夫はいつも心の中で「歌を歌っていた」のだ。
超絶技巧のカシオペアのアレンジでは感じなかった,櫻井哲夫の中のMPB。そう言えばカシオペアって,ブラジル公演も行なったよなぁ。
とにかく『カルタス・ド・ブラジル』は“超絶ベーシスト”櫻井哲夫を聴くアルバムではなく櫻井哲夫の“サウダージ”を聴くためのアルバムである。
極論を書けば,櫻井哲夫は『カルタス・ド・ブラジル』で自らベースを弾かなくてもよかった。現地ブラジルのミュージシャンをコーディネイトと譜面を渡しさえすればすればよかった。もうその時点で『カルタス・ド・ブラジル』は完成したも同然だったから。後はちょちょっと最後の仕上げをするだけで「一丁上がり」!

ある日,完全に脇役に徹している櫻井哲夫のベースを追いかけていて気付いたことがある。櫻井哲夫は1曲毎にベースの表情を変えてきている。
スーパー・ウルトラ・テクニックを封印してもベースにこれほどの手間と時間をかけているのだった。
櫻井哲夫の「ブラジル大好き」は,本物を超えた本物です!
01. ELISA
02. CANCAO DO CORACAO
03. REAL
04. VENUS
05. COM A PAZ NO CORACAO
06. A ESTRELA NAMORADA
07. SAUDADE DE VOCE
08. NAVEGANDO SOZINHO
09. LA MADRUGADA
10. SONHO DE VERAO
11. TEMPLO DA ILUSAO
(ビクター/JVC 2003年発売/VICJ-61127)
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