
黒いファンキーではない,洗練されたファンキーだと分かっていても,それでもノッテしまうし,ノセられてしまう。ドナルド・バードとデューク・ピアソンの共通する資質が気持ちよく融合し,味わい深さが増している。
その意味でドナルド・バードを代表するファンキー・ジャズの1枚は『フュエゴ』ではなく『ザ・キャット・ウォーク』の方である。
そう。知的な雰囲気にノセられてしまう,という「矛盾」を解決してくれるのが,フィリー・ジョー・ジョーンズのドラミング。レックス・ハンフリーズのPOP感覚なドラミングも,ハード・バップではなくファンキーでもない『フュエゴ』にはよく合っている。
ただし『ザ・キャット・ウォーク』のレベルにまで,ファンキー・ジャズが洗練されてしまった今,フィリー・ジョー・ジョーンズの“豪快な太鼓の鳴り”にトドメを刺されてしまう。
実はドナルド・バードを(デューク・ピアソンを)聴き続けていると,本当に素晴らしい曲ばかりだし,曲の質の高さに魅了されてしまって,ジャズとは言えど,音楽の楽しみはメロディーにあると思い込んでしまうのだけど『ザ・キャット・ウォーク』を聴き終わる度に「ジャズの醍醐味はリズムにある」ことを毎回思い知らされる…。
別に管理人はフィリー・ジョー・ジョーンズの大ファンではないのだけれど『ザ・キャット・ウォーク』におけるフィリー・ジョー・ジョーンズのドラミングだけは大絶賛。
ドナルド・バード〜ペッパー・アダムス〜デューク・ピアソンの絶品フロントを「つまみ喰い」しながら,曲想の端々を縦横無尽に駆け巡る〜。
チャーミングな楽曲,耳に心地よいアレンジ,まとまりの良いソロ…。綺麗にまとめ上げられたドナルド・バード〜ペッパー・アダムス〜デューク・ピアソンの専売特許を“豪快な太鼓の鳴り”一発で凌駕するとてつもない原始的なエネルギーの動きを感じ取る。個人の本能的センスが秀才的予定調和の世界を打ち破った瞬間の痛快さで満ちている。
『ザ・キャット・ウォーク』のハイライトは,ファンキー・ジャズ史上稀に見る,デューク・ピアソンとフィリー・ジョー・ジョーンズによる「知性と本能の対比」にある。

ドナルド・バードがミュートを吹けば吹くほど,ペッパー・アダムスがバリトン・サックスらしからぬ,流ちょうなテーマを奏でれば奏でるほど,デューク・ピアソンが鍵盤で8小節に区切って,曲全体をまとめればまとめ上げるほど,フィリー・ジョー・ジョーンズのドラムがまるで躍動する生き物のように呼吸し,囁き,叫んでいるように聴こえてしまう。
結果,一周回ってドナルド・バードのトランペットに「叙情性」が加えられて聴こえてしまう。(以前ならこう呼ぶのに抵抗があったはずなのに)ドナルド・バードこそがファンキー・ジャズだ,と叫んでしまいたくなる。管理人の愛聴盤の1枚である。
01. SAY YOU'RE MINE
02. DUKE'S MIXTURE
03. EACH TIME I THINK OF YOU
04. THE CAT WALK
05. CUTE
06. HELLO BRIGHT SUNFLOWER
(ブルーノート/BLUE NOTE 1962年発売/TOCJ-7128)
(ライナーノーツ/ナット・ヘントフ,岡崎正通)
(ライナーノーツ/ナット・ヘントフ,岡崎正通)
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