
“スーパー・ベーシスト”櫻井哲夫がここまでベース・サウンドを前面に押し出したソロ・アルバムはかつてなかった。
しかも主役はフレットレス・ベースと来た。新曲なしのオール・カヴァー集と来た。差別化はされるが容易に比較もされうる大勝負に,得意の“超絶”チョッパー・ベースを封印してきた。
ここに管理には櫻井哲夫の“スーパー・ベーシスト”としてのこだわりを感じた。フレッテットでも十二分に勝負できる。“超絶”チョッパーを弾かせたら,ジャコ・パストリアスにもマーカス・ミラーにもガチンコで勝てる自信がある。
でもそうじゃない。ジャコ・パストリアスとマーカス・ミラーが凄いのはテクニックではない。唯一無二の音楽性なのだ。
そのことを櫻井哲夫が一番知っているから,ベース・ソロ・アルバムを作るなら,フレットレス・ベースの“歌もの”で,ジャコ・パストリアスもマーカス・ミラーも追い求めた「夢の続き」にチャレンジしたのだ。
ジャコ・パストリアスもマーカス・ミラーも,本当は櫻井哲夫の『トーキング・ベース』みたいなアルバムを作ってみたかったのだと思う。
そう。『トーキング・ベース』の真髄とは,ベースを自分のヴォイス代わりに歌わせた「ベースでの弾き語り」であり「ベースでのホーモニー」なのであろう。
なんてったって櫻井哲夫が凄いのは,フレットレス・ベースをメロディーの中心に据えて,物足りない重低音はシンセ・ベースで補うことさえしている。普通のベーシストなら考えつかない荒業である。
櫻井哲夫は『トーキング・ベース』でバック・サウンドを緻密にアレンジしている。その上でフレットレス・ベースを即興的に被せている。
フレットレス・ベースによるジャコ・パストリアスのソロ・パフォーマンスは“伝説”と化している。マーカス・ミラーの完璧なバック・サウンドの上を即興で吹き上げるマイルス・デイビスの『TUTU』も“伝説”と化している。
そんな「ベース界のレジェンド」2人が手がけてきた「夢の続き」を櫻井哲夫が引き受けている。受け継いだのは手法ではなく“スピリッツ”。誰も作り上げたことのないベース・サウンドなのである。
世界TOPのプロデューサーでもあるマーカス・ミラーがベース・ソロの難しさをトクトクと語っていた記憶がある。マーカス・ミラーの趣旨は「ベースをフィーチャーさせると,音楽の完成度を損なう危険をはらむ」ということだったと記憶する。
この言葉を借りるなら,ついに櫻井哲夫もトータル・ミュージシャンとしてチャレンジできるところまで来たということだろう。そして『トーキング・ベース』の見事な完成度が“アーティスト”櫻井哲夫の成長を証ししている。

フレットレス・ベースはやっぱりベースであり,低音担当のアンサンブル楽器でありタイム・キーパーなのである。そんな「屋台骨」のベースが,リズムをリードしつつ大いに歌っているのだ。最高に素晴らしい。
しかもこの音色に,この歌声に癒される。管理には櫻井哲夫のフレットレス・ベースの音色が世界一美しいと信じている。あの柔らかい音色&温かな音色が“艶のある声で”鳴っている。優しく語りかけるようなフレットレス・ベースが余裕を残して鳴っている。
ベース一本に人生をかけてきた“スーパー・ベーシスト”櫻井哲夫の“最高傑作”として管理人は『トーキング・ベース』を指名する。
01. The Long And Winding Road
02. Donna Lee
03. Butterfly
04. Sunflower
05. I Wish
06. I Can't Help It
07. Sailing Alone
08. Alisa
09. Stardust
10. 見上げてごらん夜の星を
(キングレコード/KING RECORD 2012年発売/KICJ-641)
(ライナーノーツ/櫻井哲夫)
(ライナーノーツ/櫻井哲夫)
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