
『プレイリー・ドッグ』で,初期のデューク・ピアソンが逝っている。『プレイリー・ドッグ』こそが,デューク・ピアソン「バージョン2」の始まりなのである。
“天才”ゆえの悩みなのか,初めてブチ当たった壁なのか,デューク・ピアソンが“リリカル&ファンキー”路線の「自分の殻を打ち破ろうと」必死にもがいている。
5拍子と6拍子が交錯する【THE FAKIR】は,なぜに今更な【TAKE FIVE】と【MY FAVORITE THINGS】的なフルートとソプラノ・サックスの,いいとこどりな合作である。
【PRAIRIE DOG】も,ゴスペルチックなデューク・ピアソンのリバイバル・ソングであって,ギターとホーンのアンサンブルが延々続くカントリー・ソング。【PRAIRIE DOG】こそがアメリカン・フォークの「王道」である。
ブルース調の【SOULIN’】とモーダルな【LITTLE WALTZ】では「新主流派」的な“リリカル&ファンキー”であって,この2トラックがデューク・ピアソンの“らしさ”&“さすが”が“COOL”に伝わってくる。
他のアルバムに入っていたなら名演として押されたのかもしれないが,個性派揃いの『プレイリー・ドッグ』の中に入っていては,平凡すぎて埋没しているのかなぁ。
【HUSH−A−BYE】と【ANGEL EYES】は,共にジャズライン時代に取り上げたデューク・ピアソンの愛想曲の再演。
アレンジを前回から思いっきり変えて,チェレスタのデューク・ピアソンとベーシストのボブ・クランショウとの白眉のデュエット。
美しいオルゴールの世界の後ろでボブ・クランショウの「ブンブン」弾きまくる低音をフィーチャリングしたアイディアが素晴らしいと思う。

果たして,その出来映えであるが,デューク・ピアソンが自分自身で過去のデューク・ピアソンを否定したかのようなアルバムに聴こえる。
やりたいことが多すぎて,どうまとめたらよいのか先が見えずに,自分をコントロールできなくなったデューク・ピアソンの“知性派”が初めて乱れている。トータル・イメージが散漫なデューク・ピアソンの“闘争本能”が露わにされている。
でもそこがたまらなくいいのだ。まとまりなど二の次なのだ。出来は一段落ちる。
でも「完全に壊れてしまった」デューク・ピアソンが聴ける。これこそが『プレイリー・ドッグ』最大の聴き所なのだ。
出来の悪い子供こそ「情が移る」というものだ。時間をおいて練り上げられた名盤『SWEET HONEY BEE』への初期の制作過程を聴いている気分になれるのも良い。
だ・か・ら『プレイリー・ドッグ』は聴き飽きない。
01. THE FAKIR
02. PRAIRIE DOG
03. HUSH-A-BYE
04. SOULIN'
05. LITTLE WALTZ
06. ANGEL EYES
(アトランティック・ジャズ/ATLANTIC JAZZ 1966年発売/WPCR-27166)
(ライナーノーツ/ジャック・ショー,岡崎正通)
(ライナーノーツ/ジャック・ショー,岡崎正通)