
アイアート・モレイラとフローラ・プリムを起用したブラジリアン・フレイバーは,出来上がりこそ異なれど,チック・コリアの「リターン・トゥ・フォーエヴァー」と同じ方向性を見据えていたように思う。
デューク・ピアソンがピアノではなくエレピを中心に据えている。デューク・ピアソンのエレピコンビを組むのがエルミート・パスコアールのフルートである。
フローラ・プリムのヴォーカルが不安定で「ギャル」しているところも『イット・クッド・オンリー・ハプン・ウィズ・ユー』特有の“味”である。
『イット・クッド・オンリー・ハプン・ウィズ・ユー』の録音年は1970年。あの『リターン・トゥ・フォーエヴァー』より2年も前のことである。
『イット・クッド・オンリー・ハプン・ウィズ・ユー』の発売年は1974年。あの『リターン・トゥ・フォーエヴァー』より先にリリースされてさえいれば…。
デューク・ピアソンは,今では「知る人ぞ知る」存在である。だからマニアックなジャズ・ファンとしては「自分だけの」デューク・ピアソンみたいな感じがして熱狂度が上がるのだと思う。
だから『イット・クッド・オンリー・ハプン・ウィズ・ユー』の4年間の「遅れ」が惜しまれる。デューク・ピアソンの「地位向上」という意味合いが強いのだが『イット・クッド・オンリー・ハプン・ウィズ・ユー』の4年間の「遅れ」は,ジャズ/フュージョン界にとっても損失であった。
『リターン・トゥ・フォーエヴァー』とか『ウェザー・リポート』が,すぐに爆発的なヒット作と成り得たのは,チック・コリアやジョー・ザビヌルやウェイン・ショーターが「マイルス・スクール」の卒業生だったからだろう。
その意味で,マイルス絡みではないデューク・ピアソンのブラジリアン・フュージョンが「天下」を取ろうものなら,ジャズ/フュージョン界の動向は,チック・コリアに“先んじた”デューク・ピアソンに大いに影響されていたことであろう。
ドナルド・バードがマイルス・デイビスを押さえて“新・帝王”として君臨していたのかも?

“SOFTLY”な【IT COULD ONLY HAPPEN WITH YOU】〜【STORMY】〜【EMILY】の3連チャンのジャズ・ヴォッサが艶やかすぎて『リターン・トゥ・フォーエヴァー』の衝撃クラスの快感である。
単純に気分が良くなるという楽曲ではない。ジャズにブラジルのエッセンス,ジャズにボサノヴァのエッセンスというものではなく,ジャズの本質とフュージョンの本質が絶妙に入り混じった,全く新しい音楽の誕生なのである。
01. GIRA. GIROU (ROUND AND ROUND)
02. HERMETO
03. LOST IN THE STARS
04. IT COULD ONLY HAPPEN WITH YOU
05. STORMY
06. EMILY
07. BOOK'S BOSSA
(ブルーノート/BLUE NOTE 1974年発売/TOCJ-50526)
(ライナーノーツ/高井信成)
(ライナーノーツ/高井信成)