
そして,そんな“エレクトリックをも凌駕する”アコースティック・フュージョンの“最高峰”に位置する1枚が『FINGER PAINTINGS』(以下『フィンガー・ペインティング』)であろう。
『フィンガー・ペインティング』というアルバム・タイトルは本来「指で絵を描く画法」のことを指すのだが,ピックを使わず10本の指弾きでガット・ギターを自在に操るアール・クルーのギター演奏法を端的に言い表わしているように思う。
ズバリ,アール・クルーの「超絶技巧」と「優しさ」を表現するのに最適な楽器こそがアコースティック・ギター。それもスチール弦ではない
ナイロン弦の所謂クラシック・ギター。
並みのエレクトリック・ギタリスト以上に,爽やかなフュージョン・サウンドを届けてくれる〜!
なぜに管理人がアール・クルーの紹介文として,アール・クルー最大の魅力である「美しいメロディー・ライン」を差し置いて“アール・クルー=アコースティック・ギタリスト”と押しているかと言うと,本来アール・クルーは「凄腕のエレクトリック・ギタリスト」だったという過去を知ってほしいから…。
そう。アール・クルーは「リターン・トゥ・フォーエヴァー」のエレクトリック・ギタリスト!
ビル・コナーズの後任としてチック・コリアが声をかけたのはアル・ディメオラではなくアール・クルーだっという事実!
残念ながらアール・クルーは2カ月間で「リターン・トゥ・フォーエヴァー」を離れたらしく音源が手に入らない。どうしてもアール・クルー入りのRTFを聴いてみたい欲求と,どうあがいても聴くことのできないこの悶々感…。
チック・コリアのフォロワーでしたらお分かりいただけますよね?
『フィンガー・ペインティング』をまだ未聴の読者の皆さんがいらしたら,こんな予備知識を持ってアール・クルーを,そして『フィンガー・ペインティング』を聴いてみてほしい。
絶対に軟派だとか「ソフト&メロウ」路線だとは言い切れない“疾走する”アール・クルーの純白無垢にしてエレクトリック・ピアノやエレクトリック・ベースと自然に溶け込む“エレクトリック・アコースティック・フュージョン・ギター”の世界観にKOされてしまうこと請け合い!
エレクトリック・ギターという刺激的な相棒を手放し,角の無いサウンド・コンセプトを表現するためガット・ギターの“ヴィヴィッドな響き”へと乗り換えたアール・クルーの“ギタリズム”が素晴らしい。
とりわけエレクトリックとアコースティック特有の個性を引き立て合う,メリハリのある音造りが実に素晴らしい。
ナイロン弦と来れば管理人にはボサノヴァである。だからアール・クルーの演奏スタイルにはリズミックな楽曲が似合うと思っている。
例えば【DR.MACUMBA】の前奏のリフが流れ出すと,今でもすぐに足でリズムを取ってしまう。弾むような爽やかなリズムに乗ってアール・クルーのラテン・フレイバーなガット・ギターがス〜ッと入ってくる瞬間の最高のワクワク感は日産車以上のものがある。

特にリー・リトナーがサイド・ギターに徹したカッテイングとバックのタイトなノリが最高であって,そこに絡むアール・クルーがこれまた最高〜!
『フィンガー・ペインティング』の大ヒット以降,アール・クルーは本格的に「ソフト&メロウ」路線に進んでいく。リズムがシンプルになって面白みが薄まったと思う。
それがアール・クルーの初めからの狙いであり,そのためのガット・ギターへの転身であったことは承知の上だが,もっとリズミカルなフュージョン・ギターも弾いてほしい。
そう。『フィンガー・ペインティング』と来れば,絶賛を口にしつつも「リターン・トゥ・フォーエヴァー」の「隠の2代目」ギタリスト“アール狂う”を惜しげもなく披露してほしい,と真っ先に口から出てしまう「無いものねだり」の管理人なのであります。
01. DR. MACUMBA
02. LONG AGO AND FAR AWAY
03. CABO FRIO
04. KEEP YOUR EYE ON THE SPARROW (BARETTA'S THEME)
05. CATHERINE
06. DANCE WITH ME
07. JOLANTA
08. SUMMER SONG
09. THIS TIME
(ブルーノート/BLUE NOTE 1977年発売/TOCP-8903)
(ライナーノーツ/成田正)
(ライナーノーツ/成田正)