
キース・ジャレットとパット・メセニーから始まって,ケニー・バロンしかり,ジム・ホールしかり,エグベルト・ジスモンチしかり…。
そんな中,管理人がチャーリー・ヘイデンのデュエット“最高傑作”として推すのが,ピアノの“御大”ハンク・ジョーンズとのデュエット『STEAL AWAY』(以下『スピリチュアル』)である。
ハンク・ジョーンズの,リリカルで,それでいて万人受けするストレートなフレージングの説得力が,チャーリー・ヘイデンの朴訥で,斜に構えがちな重いフレージングとの絶大なる「相性の良さ」を感じさせる。
( チャーリー・ヘイデン&ハンク・ジョーンズによる続編『カム・サンデイ』はハンク・ジョーンズの遺作である。ハンク・ジョーンズにとっても特別だった? )
同じピアニストであってもくすみがちの美しさのキース・ジャレットとストレートに煌びやかなハンク・ジョーンズでは全然違う。
しかし,キース・ジャレットにしてもハンク・ジョーンズにしても,チャーリー・ヘイデンとデュエットしている間は,類まれなる個性を捨てて,どちらも一介のジャズ・ピアニストに戻っている。
ここにチャーリー・ヘイデンの個性が聴こえる。チャーリー・ヘイデンはまず共演者の音楽をじっくりと聴いている。そしてそのジャズメンの本音が聴こえ出すまで待つことができる人である。
そうしてついに本音が聴こえ出した瞬間に共演者の意図を汲み取り,その場にふさわしい最高の音を選択する名手。表に出ようと裏に回ろうとも,いつでも音楽全体を優しく包み込み,自慢のベースをいつでも意識的に消すことができる。
そう。チャーリー・ヘイデンは音楽の土台を支えるベーシストにして,共演者がどんなアドリブで弾けようとも,最後にはちゃんと帰って来る受け皿を準備している。
デュエット中の共演者は,チャーリー・ヘイデンと2人でシーソーにでも乗ったかのような楽しい気分になるのだと思う。要するにチャーリー・ヘイデンとはバランサーなのだ。
チャーリー・ヘイデン&ハンク・ジョーンズが『スピリチュアル』で選んだテーマは,古くから歌われてきた黒人霊歌や教会の賛美歌である。
黒人音楽への敬意,普通の暮らしへの敬意,普通に生きている人々の日々の営みへの敬意,そういう暮らしを繰り返してきた先人たちへの敬意がアルバム全体に貫かれている。ここにアドリブは要らない。新しいアレンジも要らない。

チャーリー・ヘイデンのベースが丸みを帯びている。ただ丸いだけではない。長い年月を経て熟成されて角がとれてきたような丸み,と書けばよいのだろうか,芯の部分では強い意思を保っていて,それが深いコクとまろやかさのある極上の味わいになっている。
ハンク・ジョーンズのピアノには,既に心に刻まれている,お馴染のメロディーをただなぞっただけの雰囲気がある。シンプルに,そしてたんたんと,リラックスした演奏が進行していく…。
本を片手にぼんやりと『スピリチュアル』に向き合う幸福感がたまらない。ながら聴きの最中に,ふと音楽に耳を傾けたその瞬間,まるでシャッターで切り取られたかのような,極上のメロディーが耳に飛び込んでくる…。
教会の机の木の香り,ひんやりとした空気,ステンドグラスの不思議な色合い,その向こうに見えた大きな木に揺れる緑の葉っぱ,薄い水色の高い空。そんなことを思い出す。ぼんやりとした記憶…。けれどもはっきりとした記憶…。
01. IT'S ME, O LORD (STANDIN' IN THE NEED OF PRAYER)
02. NOBODY KNOWS THE TROUBLE I'VE SEEN
03. SPIRITUAL
04. WADE IN THE WATER
05. SWING LOW, SWEET CHARIOT
06. SOMETIMES I FEEL LIKE A MOTHERLESS CHILD
07. L'AMOUR DE MOY
08. DANNY BOY
09. I'VE GOT A ROBE, YOU GOT A ROBE (GOIN' TO SHOUT ALL
OVER GOD'S HEAV'N)
10. STEAL AWAY
11. WE SHALL OVERCOME
12. GO DOWN, MOSES
13. MY LORD, WHAT A MORNIN'
14. HYMN MEDLEY;
ABIDE WITH ME
JUST AS I AM WITHOUT ONE PLEA
WHAT A FRIEND WE HAVE IN JESUS
AMAZING GRACE
(ヴァーヴ/VERVE 1995年発売/POCJ-1273)
(ライナーノーツ/モーリス・ジャクソン,チャーリー・ヘイデン,アビー・リンカーン)
(ライナーノーツ/モーリス・ジャクソン,チャーリー・ヘイデン,アビー・リンカーン)
コメント
コメント一覧 (2)
キースとのデュオとは一味も二味も違うハンク・ジョーンズとのデュオです。チャーリー・ヘイデンの視点で語れば,ハンク・ジョーンズと相性が合いますが,キースの視点から言えば,やっぱりベースはヘイデンになるのでしょうね。