
同じピアノ・トリオのキース・ジャレット・トリオでもなく,同じ北欧出身のヨーロピアン・カルテットでもなく,絶対にアメリカン・カルテットであると認識する。
その確信の根拠を問われれば『FROM GAGARIN’S POINT OF VIEW』(以下『フロム・ガガーリンズ・ポイント・オブ・ヴュー』)を聴いてほしい,と答えることにしている。
(全曲いいのだが)【DEFINITION OF DOG】を聴いてほしい。『フロム・ガガーリンズ・ポイント・オブ・ヴュー』は【DEFINITION OF DOG】の1曲に億千万の価値がある。
なぜならば【DEFINITION OF DOG】こそが,キース・ジャレット・アメリカン・カルテットの『SHADES』収録【SOUTHERN SMILES】の変奏曲。
つまりはエスビョルン・スヴェンソンによるキース・ジャレットへ捧げたオマージェの発露であり,誰も継承することのできなかったアメリカン・カルテットの後継バンド宣言に思えるからだ。
一般にアメリカン・カルテットと来れば,土臭くアバンギャルドで濃厚な演奏をイメージしてしまい,人気の点でヨーロピアン・カルテットの後塵を拝しているようだが,オリジナリティー,洗練度,斬新さ,美しさの点で他のプロジェクトを凌駕しているように思う。
ほぼ全てのアルバムが「オール5」のキース・ジャレットの名盤群の中にあって,異質な美しさが頭一つ抜きん出ている。
聞けばエスビョルン・スヴェンソンはキース・ジャレット好きを公言しているようだ。
でもそんな言葉など必要ない。管理人のようなキース・ジャレットの大ファンなら【SOUTHERN SMILES】“一発”でエスビョルン・スヴェンソンの中に宿っているキース・ジャレットの音楽観を聴き取れるものと思っている。
切れ目なく3曲一気に疾走する,リリカルなミディアム・テンポの【DATING】【PICNIC】【CHAPEL】が管理人の大好物! スタートから一気に惹き込まれる。エスビョルン・スヴェンソンによる16分音符の息の長いパッセージを昇降するピアノが最高にクリティカル!
そうして地ならしされた後に登場するキラー・チューン=4曲目【DODGE THE DODO】の新録バージョンが最高に“COOL”なジャム・ポップ。ドラムン・ベース炸裂のシャウト感がたまらない! 素晴らしい仕掛けであろう。
5曲目【FROM GAGARIN’S POINT OF VIEW】で,静かに流れ出す美旋律バラードは,深い藍色を呈するバルト海をゆっくり遊覧する豪華客船から眺めるフィヨルドを想起させてくれる。
( 6曲目【THE RETURN OF MOHAMMED】の緩やかに浮遊する優しいメロディーは,これまた管理人の鉄板=パット・メセニー・グループを連想させてくれる。余談だが「e.s.t.」と“相思相愛”なのはキース・ジャレットだけではない。何を隠そうパット・メセニーも「e.s.t.」を大絶賛していた。キース・ジャレットにパット・メセニーなのだから管理人が“のぼせる”気持ちも分かるでしょ? )

『フロム・ガガーリンズ・ポイント・オブ・ヴュー』を耳にして,ずっとこんなアルバムを聴きたいと願っていたことを思い出した。キース・ジャレット・アメリカン・カルテットのような音楽を探していた。そしてついに巡り会えたのだ。この管理人の喜びを理解していただけますか?
管理人の結論。『フロム・ガガーリンズ・ポイント・オブ・ヴュー』批評。
「e.s.t.」の真髄とは『GOOD MORNING SUSIE SOHO』以降の「ロックするピアノ・トリオ」で間違いない。
その意味でエフェクター,ディストーション,ディレイにリズムマシンまでも駆使したアコースティック楽器の電気武装以前 → アコースティックの鳴りそのまんまな『フロム・ガガーリンズ・ポイント・オブ・ヴュー』は「e.s.t.」の“最後にして最高の”ジャズ・アルバムである。
01. Dating
02. Picnic
03. Chapel
04. Dodge The Dodo
05. From Gagarin's Point Of View
06. The Return Of Mohammed
07. Cornette
08. In The Face Of Day
09. Subway
10. Definition Of Dog
11. Southwest Loner
(ソニー/SUPER STUDIO GUL 1999年発売/SICP-348)
(ライナーノーツ/杉田宏樹)
(ライナーノーツ/杉田宏樹)