
大西順子好きの管理人としては林栄一のバンドに大西順子がサイドメンとして参加を志願したとか,大西順子自ら林栄一の自宅へ教えを請いに通ったとかいうエピソードを聴くと,林栄一を聴かないわけにはいかない。
事実,大西順子の『PIANO QUINTET SUITE』でついに共演した林栄一の熱演を聴かされれば,上記エピソードの真実味が増すというものである。
管理人が初めてチョイスした林栄一のソロ・アルバムが『PHOTON』(以下『フォトン』)である。
『フォトン』は林栄一のリーダー・アルバムではなく,ソプラノ・サックスの中尾勘二とチューバの関島岳郎との共作であり,その実,他界した篠田昌已へのレクイエムな作品集。
ズバリ『フォトン』の聴き所とは,篠田昌已と林栄一との“聴き比べ”にあるはずなのだが,正直,篠田昌已の作品集は眼中にない。
あの林栄一が,ピニストもベーシストもドラマーもいない異質すぎる編成で,どんなアルト・サックスを吹き鳴らしてくれるのか,管理人に興味はその1点!
管理人の狙い通りに『フォトン』は「超アナーキー」なアルバムであった。演奏が3人だけなので多重録音で様々なパートが重ねられているが,基本的にシンプルなアレンジが施されており,力の抜けた楽器の生音が加工されずに,剥き出しで放り込まれた生々しさがある。
トロンボーンとチューバ入り,というのがかなり大きい。ふくよかな音色で曲の大枠を描いている。そこに林栄一と中尾勘二の2管サックスが細かな線で肉付けしていく。
3人で完成すべき篠田昌已の絵は決まっている。林栄一,中尾勘二,関島岳郎に与えられた自由とは,完成図までに持っていくための手順であり,幾通りもあるルートの中で,敢えて篠田昌已が通ったことのない道順を通っては,いつもとは違う景色を見せてくれている。
うーむ。淡々と演奏が進行しては終わっていく。物悲しい雰囲気の篠田メロディーが,いつもとはちょっとだけ違う場所で響いている。
篠田昌已の作品集としての『フォトン』は成功なのだろう。この音楽は嫌いではない。

ジャズとはアドリブのことだと考えるマニアにとって『フォトン』とは即興のない退屈な音楽である。
『PIANO QUINTET SUITE』で主役を張った林栄一は『フォトン』の中には存在しない。篠田昌已を自分なりに解釈しては,別サイズのキャンバスに模写する全くの別人のようである。
『フォトン』の中に大西順子が憧れた林栄一はいなかった。おかげで『フォトン』以降,林栄一のフリー・ジャズを探す意欲を失くしてしまった。
おおっと,管理人は『フォトン』1枚の失敗だけで林栄一を見限ったりできない。1曲だけなのだが急加速を繰り返す【オーバー・チューン〜ニキシのまだ来ない朝】での林栄一が素晴らしい。
つまり『フォトン』とは1曲目の【オーバー・チューン〜ニキシのまだ来ない朝】がピークで残る9曲がアトダレなんだよなぁ。
あの大西順子が“恋焦がれた”林栄一の最高峰の音楽に,いつか自然体で出会えるその日を待つことにしようと思う…。
01. オーバー・チューン〜ニキシのまだ来ない朝
02. 1の知らせ
03. こぶしの踊り(光る人)
04. 「TATSUYA」より
05. 反射する道
06. Em
07. ハルマゲドン
08. アジールのマーチ
09. 耕す者への祈り
10. ナーダム
EIICHI HAYASHI : Alto Saxophone, Baritone Saxophone
KANJI NAKAO : Soprano Saxophone, Klarinette, Torombone, Drums
TAKERO SEKIZIMA : Tuba
(オフノート/OFF NOTE 1999年発売/ON-30)
(ライナーノーツ/神谷一義)
(ライナーノーツ/神谷一義)
詩編133編 一致して共に住む
野呂一生 『LIGHT UP』