
『KYLYN LIVE』は真に最高のライブ盤である。ゾクゾクする。しかしあの大興奮を『KYLYN』からは感じられない。
ズバリ『KYLYN』レコーディングの時点では,渡辺香津美と坂本龍一,そして日本の音楽界の精鋭たちとのコンビネーションがまだこなれてはいないのだ。
そう。『KYLYN』の音楽の本質が,あの「青と赤」真っ二つのアルバム・ジャケットに象徴されている。『KYLYN』はLPのA面が渡辺香津美のジャズ/フュージョン・サイド,B面が坂本龍一のテクノ・ポップ・サイドで構成されている。
ステージ上の楽器の配置を「青と赤」で表現した『KYLYN LIVE』のアルバム・ジャケットがお見事。「青と赤」が分断されていた『KYLYN』が『KYLYN LIVE』でついに融合したことを絵画的に表現しているように思う。
さて,そんな渡辺香津美のソロ名義のアルバムを坂本龍一がプロデュースした『KYLYN』であるが,ギターとフレットレス・ベースの渡辺香津美,フェンダー・ローズとピアノとシンセサイザーの坂本龍一,フェンダー・ローズの益田幹夫,ピアノとキーボードとヴォーカルの矢野顕子,ベースの小原礼,ドラムの村上“ポンタ”秀一,ドラムの高橋ユキヒロ,パーカッションのペッカー,トロンボーンの向井滋春,アルト・サックスとソプラノ・サックスの本多俊之,テナー・サックスの清水靖晃という,当時すでに自らのリーダー・アルバムをリリース済メンバーによる「オール・スター・セッション」こそが『KYLYN』の“伝説”である。
つまり渡辺香津美と坂本龍一の『KYLYN』における功績とは,これだけの精鋭たちを集めきった人脈にあるのであって,2人がリードしたフュージョン志向の音楽性は後付けで良い。
才能豊かなメンバーが同じスタジオに集まって,同じ空気同じ方向性で自由にクリエイトできたからこそ,後刻『KYLYN LIVE』での爆発が生じたのだろう。
「KYLYN」という名の「オール・スター・セッション」が,やがては「KYLYN BAND」を名乗れるほどに,一体感ある音の交歓に喜びを感じながらメンバー全員が「次なるステージへとステップアップできた時間と場所」としての趣きを感じる。
ちなみに「KYLYN」というプロジェクト名は,渡辺香津美と坂本龍一の双頭バンドという意味合いもあって,Kは渡辺香津美のK。Yは&の意味。Lは「RYUICHI SAKAMOTO」のRをLと表記したもの。Nは仲間のN。
面白いのは「KYLYN」から後のYMOが誕生し,渡辺香津美もYMOのサポートを務めるようになった事実もあって「KYLYN」の主導権は常に「LYUICHI SAKAMOTO」が握っており,渡辺香津美サイドが坂本龍一サイドに呑み込まれてしまったような印象で聴こえるところである。うん。教授&アッコちゃん!

『KYLYN』は2つの別々のコンセプトが合体したコンパイル盤にして,それぞれのコンセプトの括りも曖昧で曲想がバラバラな実験作。『KYLYN』は,コンビニ的な凄腕メンバーの才能豊かなソロを楽しむためのアルバムである。
ただし,この「暗中模索的」な『KYLYN』セッションから,後の『KYLYN LIVE』なる大名盤が誕生し『KYLYN LIVE』で発芽した「音の種」が,J−ジャズ/フュージョン界に満開の花を咲かせる結果につながったのだから「分水嶺的」なアルバムとして(音楽性とは別の分野で)評価されて然るべきだと思っている。
01. 199X
02. SONIC BOOM
03. WATER WAYS FLOW BACKWARD AGAIN
04. MILESTONES
05. E-DAY PROJECT
06. AKASAKA MOON
07. KYLYN
08. I'LL BE THERE
09. MOTHER TERRA
(ベター・デイズ/BETTER DAYS 1979年発売/COCB-53837)
(☆HQCD仕様)
(ライナーノーツ/松下佳男)
(☆HQCD仕様)
(ライナーノーツ/松下佳男)
コメント一覧 (2)
引っ越し後,まだ落ち着かないこともあるのでしょうか? 体調も三寒四温で上向くとよいですね。
YMO。好きです。今はJAZZ/FUSION専門ですのでYMOのCDは全て売り払った後なのですが昔はCDを買ってはよく聴いておりました。
「KYLYN」のメンバーの凄さを認める武ちゃんさんもFUSION通ですね。「KYLYN」と「KYLYN LIVE」は全くの別物です。「KYLYN LIVE」が数倍楽しいと思っています。