MADE IN CORACAO-1 渡辺貞夫“最高傑作”は『エリス』である。それは良いとして『エリス』と同日発売の『MADE IN CORACAO』(以下『メイド・イン・コラソン』)とはリリース直後の30年前,人気・実力・扱いともに大きな開きがあったように記憶する。

 渡辺貞夫名義でトッキーニョがゲストとして参加したのが『エリス』であり,トッキーニョ渡辺貞夫の共同名義の『メイド・イン・コラソン』は,トッキーニョソロ名義では売れないからコラボになったとかならなかったとか…。
 事実,良作の『エリス』は,アメリカのジャズ・チャート4週連続の第1位獲得。二卵性双生児ゆえ,どうしても比較される『エリス』と『メイド・イン・コラソン』の評価は9:1で『エリス』の圧勝だったと記憶する。

 あれから21年。リマスタリングされた『エリス』と『メイド・イン・コラソン』の両盤を買い直してみた。そうして聴き直してみると,印象がガラリと変わってしまった。
 管理人の『エリス』=“最高傑作”の評価は揺らがないが『メイド・イン・コラソン』の,ほっこりとした温かな歌心に心が揺さぶられる。一気に『メイド・イン・コラソン』が『エリス』と同じレベルで肩を並べてしまったのだ。

 この全てはトッキーニョのヒューマンな音楽性に尽きる。ハッキリ言えばトッキーニョより上手なヴォーカリストトッキーニョより上手なギタリストは五万といる。
 でもどんなに超一流のヴォーカリストギタリストが集まろうともトッキーニョ1人のヒューマンな音楽性の魅力にはかなわない。渡辺貞夫トッキーニョに惚れ込んでいる理由を管理人も21年かかってようやく理解できた思いである。

 いいや『メイド・イン・コラソン』の真実とは,トッキーニョから捧げられた渡辺貞夫への“賛歌”である。
 『メイド・イン・コラソン』の全10トラック中,渡辺貞夫の楽曲が6曲。つまり『メイド・イン・コラソン』とは「TOQUINHO PLAYS SADAO WATANABE FEATURING SADAO WATANABE」なのである。

 『エリス』で新録された渡辺貞夫の【ELIS】【O QUE PASSOU PASSOU】の2曲にトッキーニョが詩を付けた。それだけではなく【BLUE LOVE LETTER】【MORNING ISLAND】【SERENADE】【STRAY BIRDS】の渡辺貞夫の既発4曲にもトッキーニョが詩を付けた。

MADE IN CORACAO-2 作曲家,メロディー・メイカーとしてつとに評価の高いトッキーニョがここまで渡辺貞夫の曲を歌うことに執着しているのは,2人の友情の証しであるばかりでなく,渡辺貞夫の音楽にブラジル音楽と共通するメロディー・センスを有することの証しでもある。

 そう。渡辺貞夫トッキーニョに惚れ込み,トッキーニョ渡辺貞夫に惚れ込んで制作されたのが「TOQUINHO PLAYS SADAO WATANABE FEATURING SADAO WATANABE」=『メイド・イン・コラソン』。

 いつの日か『メイド・イン・コラソン』が『エリス』を凌駕する日がやってくることを,実はひそかに期待しちゃったりして…。

  01. SAUDADES DE ELIS
  02. MINHA PROFISSAO
  03. MADE IN CORACAO
  04. O QUE PASSOU PASSOU
  05. FILHO MEU
  06. SAMBA DA VOLTA
  07. CARINHOSO
  08. SENTIMENTOS IGUAIS
  09. BONS MOMENTOS
  10. INQUIETO AMOR

(エレクトラ/ELEKTRA 1988年発売/WPCL-10648)
(ライナーノーツ/中原仁)

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