THE ILLINOIS CONCERT-1 『THE ILLINIOIS CONCERT』(以下『伝説のイリノイ・コンサート』)は,あの“発掘王”マイケル・カスクーナが掘り当てた,あのエリック・ドルフィーとあのハービー・ハンコックとの『伝説のコンサート』音源である。

 録音当時の最重要人物=エリック・ドルフィーと新世代の重要人物=ハービー・ハンコックとの「幻の共演ライブ盤」ゆえ,発売前から情報が洩れては,その演奏内容が評判になったものだ。
 何故それほど評判になったのかは,冒頭の20分を超える【朝日のようにさわやかに】を聴けば納得&理解できる。

 【朝日のようにさわやかに】は,エリック・ドルフィーバスクラリネットに内臓をひっくり返されて,ハービー・ハンコックの端正なピアノで我に返る。あたかもジェットコースターに乗せられているような演奏である。
 エリック・ドルフィーの情念とハービー・ハンコックの理性の対比が名演を生んでいる。

 エリック・ドルフィーハービー・ハンコックの【朝日のようにさわやかに】には,あの美しいテーマは出て来ない。
 ハービー・ハンコックのきめ細かく繰り返されるバッキングに乗って,いつもよりフレーズとフレーズの間を大きめに空け,思索的なプレイを繰り広げている。

 エリック・ドルフィーが繰り出す短いフレージングは,その瞬間&瞬間においては素っ頓狂に聴こえるかもしれない。しかし,これらの集積が時間の経過とともに少しずつ意味をなしてゆくのだ。
 将棋で語れば,何十手も前に打った歩兵が,突然効いてくるかのように,エリック・ドルフィーは長尺演奏のフォーマットを最大限に活かし,未来への布石を一手,一手着実に打ち込むかのようなアドリブを積み重ねている。素晴らしい。

 そうして迎えたクライマックスが,エリック・ドルフィー渾身の“馬のいななき”と称されるバスクラリネットのカデンツァである。こんなにもスリルを覚える演奏にはそう滅多にお耳にかかれない。
 ここにエリック・ドルフィーハービー・ハンコックの共演の意味と価値を聴いている。エリック・ドルフィーハービー・ハンコックが真剣に自ら主張する音でぶつかり合って調和している。

THE ILLINOIS CONCERT-2 以前にも書いたが,エリック・ドルフィーは傑出したソロイストであるし,セッションに参加すれば「道場破り」のような演奏をする。
 一方,エリック・ドルフィーは自分のリーダー・バンドの演奏では,バックには王道の演奏を楽しんでもらい,自分はそんなバンドとの不協和音を1人楽しんでいるように思える節がある。
 そして不協和音を残したまま,意思の疎通を図ったハーモニーを全員で追求していく。

 『伝説のイリノイ・コンサート』でのハービー・ハンコックとの掛け合いを聴いてその思いを強くする。
 ハービー・ハンコックが響かせるモードフリーが同居したようなピアノのバッキングが作ったスペースを利用し,エリック・ドルフィーが時に不協和音を響かせる。敢えての歪みが実にエリック・ドルフィーらしい。

  01. SOFTLY AS IN A MORNING SUNRISE
  02. SOMETHING SWEET, SOMETHING TENDER
  03. GOD BLESS THE CHILD
  04. SOUTH STREET EXIT
  05. IRON MAN
  06. RED PLANET
  07. G.W.

(ブルーノート/BLUE NOTE 1999年発売/TOCJ-66066)
(ライナーノーツ/ウラジミール・シモスコ,ロン・カーター,藤本史昭)

人気ブログランキング − 音楽(ジャズ)