
これって単に山本剛が「ご贔屓」だからではない。感情的な思い入れではない。この思いはエロール・ガーナーのアルバム『ERROLL GARNER PLAYS MISTY』(以下『ミスティ』)の全10曲を聴いて,一層強くなった。
【MISTY】の本家はエロール・ガーナーであるが,エロール・ガーナーは【MISTY】1曲だけの人ではないからだ。
『ミスティ』を聴き終えた時の感想は,何度聴いても「あっ,もう終わった」である。それくらいに気持ち良くて,ずっと聴き続けていたくなる。いいや,漢字が違います。聞き続けていたくなる,が正解。
ニュアンスとしてはジャズというよりも大衆音楽っぽい。事実【MISTY】は永遠のジャズ・スタンダードとして,ジャズのヴォーカル・ナンバーとしてもヒットしている。ポピュラー音楽としても知られている。
ここにエロール・ガーナーの本質があると思う。
一般にエロール・ガーナーと来れば「ビハインド・ザ・ビート」が代名詞。「ビハインド・ザ・ビート」とは,左手のバッキングのタイミングを微妙に遅らせることで生まれるバック・ビートの独特なノリと右手を広げてオクターブで旋律を弾くことによってメロディ・ラインを強調した奏法のことである。
もたもたした演奏という印象を持つ人もいるが「ビハインド・ザ・ビート」はエロール・ガーナーならではのスイング感とも受け取れる。
実に“ジャズ・ピアニスト”エロール・ガーナーは興味深い。テクニシャンのピアニストでありエンターテイナーのピアニストである。
しかし,だからと言って「ビハインド・ザ・ビート」でエロール・ガーナーを語るのは何か違うと思う。的外れだと思う。
【MISTY】のこの世のものとも思えない美しさは格別である。ロマンスを音で表現すると【MISTY】が最適の選択と成り得る。しかし【MISTY】だけでエロール・ガーナーが語られるのも何か違うと思う。的外れだと思う。

バラードでもスイングでもスタンダードでも,何を弾かせてもエロール・ガーナーのピアノは一級品である。
つまりは曲想を掴むのが得意であって,それを適度な塩梅で表現してくる。ツボを突いてくる。聞いていて気持ち良くなる。流れているだけで気分が良くなる。
感動モノの【MISTY】を聴きたいのなら山本剛を聴けばよい。エロール・ガーナーの『ミスティ』は【MISTY】1曲だけではなく全曲平等に聴いてほしい。
エロール・ガーナーは曲単位ではなくアルバム単位で評価されるべき“ジャズ・ピアニスト”なのである。
01. MISTY
02. EXACTLY LIKE YOU
03. YOU ARE MY SUNSHINE
04. WHAT IS THIS THING CALLED LOVE
05. FRANTENALITY
06. AGAIN
07. WHERE OR WHEN
08. LOVE IN BLOOM
09. THROUGH A LONG SLEEPLESS NIGHT
10. THAT OLD FEELING
(マーキュリー/MERCURRY 1954年発売/UCCU-5039)
(ライナーノーツ/成田正,藤本史昭)
(ライナーノーツ/成田正,藤本史昭)