
ズバリ書くと『エリクシール』にはガッカリした苦い思い出がある。手放すのは後の事になるが,どうしても好きになれなかった『SNOWBOUND』と共に中古CD屋で処分した。今手元にある『エリクシール』は2枚目となる。
このように書き出すと『エリクシール』は駄盤のように思われたかもしれないが『エリクシール』は紛れもなくリトナー期の名盤の1枚である。
褒め殺しになるかもしれないが,ボブ・ジェームス,リー・リトナー,ネイサン・イースト,ハービー・メイソンの4人が完璧にフォープレイを演じている。コツを掴んだかのような上質なアンサンブルが実にお見事。
しかし,余裕たっぷりに聞こえるせいなのか?フォープレイの4人に「うわ〜」って憧れることが出来なかった。要はエモーショナルではなく“うまさ”を無意識のうちに感じ取ってしまったのだと思う。
キャッチーさが抜けきったアダルト・コンテンポラリーな『エリクシール』の雰囲気に入れ込めず,思い入れ出来ず,感情移入が難しかった。当時まだ20代半ばの管理人には,随分と背伸びした大人の雰囲気に付いていくことができなかった。
『エリクシール』を最後にリー・リトナーがバンドを離れる。表向きの理由はリー・リトナーのソロ活動が多忙を極めて「フォープレイの一員としてスケジュール調整が出来なくなった」ことになっているが,管理人的にはリー・リトナーの“燃え尽き症候群”のようなものだと思っている。
リー・リトナーにとってのフォープレイは『エリクシール』を持って完結したのだ。誰が何と言おうと管理人はそのように受け取った。
ではどうして再び『エリクシール』を買い直したのか? それはラジオで久々に聴いた【THE CLOSER I GET TO YOU】に1年に1度の稲妻が走ってしまったから!
話がフォープレイから逸れてしまうが【THE CLOSER I GET TO YOU】が大好きなのは「SELECT LIVE UNDER THE SKY’90」での,ジョー・サンプル,フィリップ・セス,バジー・フェイトン,スティーヴ・ガッド,レニー・カストロ,フレディ・ワシントンの「SELECT LIVE SPECIAL BAND・フィーチャリング・アル・ジャロウ&ミキ・ハワード」による【THE CLOSER I GET TO YOU】の影響が大!
『エリクシール』でのパティ・オースティンとピーボ・ブライソンの【THE CLOSER I GET TO YOU】は歌であって歌ではない。これぞ“インタープレイの極み”である。
そう。パティ・オースティンとピーボ・ブライソンのヴォーカルは一般的なデュエットのレベルを超えている。パティ・オースティンとピーボ・ブライソンが譜面,アレンジという非常に狭い限られた空間の中で,互いの声の調子を聞き分けながら会話を楽しんでいるように聴こえてしまう。彼らは本当の恋人なのではないかと錯覚してしまう。
男女のデュエット曲で個人的に一番好きなのは,亡き父ナット・キング・コールとその娘ナタリー・コールがナット・キング・コールの過去音源のオーバーダブと共演を果たした【アンフォゲッタブル】なのだが,その雰囲気に良く似ている。大好き。インタープレイの真髄とは“心の交歓”というのが確かめられる名トラックである。

『エリクシール』は綺麗すぎるしアダルトすぎる。ただし【THE CLOSER I GET TO YOU】1曲の魅力で,後に続くフォープレイのヴォーカル・ナンバーを楽しめる土壌の塗り替えアルバムとして高く評価したい。
リトナー期のフォープレイの個性を書く。フュージョンの『FOURPLAY』。スムーズ・ジャズの『BETWEEN THE SHEETS』。ヴォーカル・ナンバー大有りの『ELIXER』。
PS 本文には書きませんでしたが【EAST 2 WEST】でのネイサン・イーストのスキャットがこれまた最高なので,ヴォーカル・ナンバーをフィーチャリングするフォープレイの評価確定に『エリクシール』が寄与しております。
01. Elixir
02. Dream Come True
03. Play Lady Play
04. Why Can't It Wait Till Morning
05. Magic Carpet Ride
06. Whisper In My Ear
07. Fannie Mae
08. The Closer I Get To You
09. East 2 West
10. Licorice
11. In My Corner
12. Any Time Of Day
(ワーナー・ブラザーズ/WARNER BROTHERS 1995年発売/WPCP-28152)
(ライナーノーツ/中田利樹)
(ライナーノーツ/中田利樹)