4-1 キーボードボブ・ジェームスギターリー・リトナーベースネイサン・イーストドラムハービー・メイソンからなる盤石の4ピース・バンド=フォープレイ

 そのフォープレイからリー・リトナーが脱退することになった。ボブ・ジェームスの頭の中には,リー・リトナーの代わりが見つからなければフォープレイの解散も選択肢としてあったことだろう。
 なぜならフォープレイの“売り”とは「超大物4人組」。リー・リトナーの代わりは「そこそこレベルの大物」では務まらない。果たして,リー・リトナー・クラスの「超大物」で,2年に1枚のレコーディングに参加できるギタリストが見つかるのかどうか?

 当のリー・リトナーも心配する中,フォープレイの新ギタリストが発表された。発表された後ならば「この人しかいない!」となるのだが,それにしても「まさかのまさか!」な結果である。
 何と!リー・リトナーの後釜ギタリストとはリー・リトナーの「公式ライバル」であるラリー・カールトン“その人”! 名脚本家でも絶対に思いつかない?「夢」のようで「奇跡」のような人選だと思う。

 ラリー・カールトンよ,よくぞ決心してくれた。『』の最高の出来映えを聴き返すにつれ,ラリー・カールトンへの思いが強くなる。ラリー・カールトンが完璧にリー・リトナーの後釜を務め上げている。

 元々スタジオ・ミュージシャンであったリー・リトナーラリー・カールトンだから実現した「スムーズすぎるメンバー・チェンジ」。ただし,リー・リトナーラリー・カールトンでは大いに個性が異なることをリスナーは認識しておくべきだろう。
 そう。『』の最高の出来映えはラリー・カールトンの最高の仕事に1つとして記憶されるべきだと思う。

 リー・リトナーにしても,フォープレイの中でギターを弾くには「没個性」が求められていたのだが,ラリー・カールトンの場合は,フォープレイの中で自分を捨てる,尚且つ,リー・リトナーが創り上げてきたサウンド・カラーに寄せるため,もう一段階自分を捨て去る「没没個性」が求められている。
 ゆえに『』でのラリー・カールトンギターが大人しい。いいや,完璧に「影武者ミッション」を遂行することが“仕事人”ラリー・カールトンなりの自己主張なのだと思う。

 そんなラリー・カールトンの“男気”に,ボブ・ジェームスネイサン・イーストハービー・メイソンの3人が応えないはずがない。
 一歩下がろうとするラリー・カールトンを「前へ前へ」と意識的にプッシュしている。『』でフォープレイが“世界最高のアンサンブル・バンド”になったと思う。

4-2 そう。フォープレイの真髄とは“世界最高のアンサンブル・バンド”! フォープレイとはボブ・ジェームスにとっての“世界最高のアンサンブル・バンド”であり,ラリー・カールトンにとっての“世界最高のアンサンブル・バンド”であり,ネイサン・イーストにとっての“世界最高のアンサンブル・バンド”であり,ハービー・メイソンにとっての“世界最高のアンサンブル・バンド”!

 “明るく爽やかな”リー・リトナーのもと発展してきたバンド・スタイルから“ブルージーで粘り気のある”ラリー・カールトンのもと「自分を活かして他の人も活かす」バンド・スタイルへと進歩を遂げた『』。
 カールトン期のフォープレイソロ・パートでのアドリブリトナー期のフォープレイより熱くなったと思う。

 それにしても【STILL THE ONE】は名曲中の名曲である。フォープレイ存続の危機を救ってくれたラリー・カールトンに捧げるハービー・メイソンからの「ラブ・ソング」だと悦に入って聴いている。

 【STILL THE ONE】1曲の魅力で“気だるさの”ラリー・カールトンを大歓迎している,リー・リトナー派の自分が確かにここにいる。

 それにしてもリトナー期の最高の1曲が1曲目の【BALI RUN】で,カールトン期の最高の1曲が1曲目の【STILL THE ONE】というのも単なる偶然を超えた「永遠のライバル」のインパクト!

  01. Still The One
  02. Little Foxes
  03. Sexual Healing
  04. Charmed, I'm Sure
  05. Someone To Love
  06. Rio Rush
  07. Piece Of My Heart
  08. Slow Slide
  09. Vest Pocket
  10. Swamp Jazz
  11. Out Of Body

(ワーナー・ブラザーズ/WARNER BROTHERS 1998年発売/WPCR-1942)
(ライナーノーツ/工藤由美)

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