
それは多分にボブ・ジェームスのブラス・シンセの影響だと思う。だから『X』はフォープレイのいつものスムーズ・ジャズではなく,フォープレイ久々のフュージョンである。
しかし『X』はファースト・アルバム『FOURPLAY』とは明らかに異なる。
そう。『JOURNEY』を経験したからこその「一周回ったフュージョン・アルバム」『X』の誕生なのである。
そんなフォープレイの第三章の幕開けを告げる『X』のサウンドを聴いて驚いた。イメージとしてはパット・メセニー・グループと似ているのだ。【EASTERN SKY】をブラインドで聴かされたならパット・メセニー・グループの新作と間違えること必至であろう。
そう。フォープレイが『X』で「遊んでいる」。とりわけハービー・メイソンが「遊んでいる」。
ハービー・メイソンのドラミングが「擬似」リズム・マシーン化していて,生ドラムで打ち込みにどこまで寄せることができるかを意識している。スッキリとタイトなドラミングが続いている。← カシオペアの『LIGHT AND SHADOWS』風?
この全てはハービー・メイソンなりの「ボブ・ジェームスのブラス・シンセ・フィーチャリング」なのだろう。
このハービー・メイソンの演出,フォープレイとしての演出ゆえに,派手な音質,派手なメロディー,派手な演奏になっていて,オジサン4人のフォープレイが20歳は若返ったような感覚でPOPで煌びやかに響いている。非常にヴィヴィッドでフレッシュな仕上がりだと思う。
セールス的制約や,音楽的な縛りとも完全に無縁のフュージョン。もう食うに困らないオジサン4人が若いもんに負けじと頑張っている。「一周回って」また作りたくなったフュージョンが超カッコイイ。
フォープレイ持ち前の,品の良いインテリジェンス溢れるグルーヴが,徐々にワイルドになって「ライブ・バンド」化してきている。
『X』の成功の背景こそが,音楽を楽しむ余裕が生み出す「遊び心」と過去9作で積み上げてきた“フォープレイ・サウンド”への絶対的な自信の証しにあると思う。
発想も表現もサラリと自由奔放。本当に今やりたい事を形にしている。リスナーは勘違いしてはいけない。『X』は“フォープレイ・サウンド”をメンバー4人の懐の中に届けるためのアルバムである。リスナーの好みなどはほとんど考慮されていない。だから「遊べている」。

今回のフォープレイ批評をシリーズで書いてきたから発見できたことがある。フォープレイは実は毎回,バンド・サウンドを少しづつ変えてきている。でもいろいろと試した結果として,毎回,一番美味しい“フォープレイ・サウンド”に落ち着いている。
「前作とほとんど変わらないけど,でもこの部分がちょっと違うよねっ」的な…。レビジョンアップを繰り返したフォープレイは『X』で「バージョン3.0」になっている!?
そんなフォープレイが『X』で初めて“フォープレイ・サウンド”から離れて見せた。実験風景を初めて見せてくれた。“フォープレイ・サウンド”が完熟する一歩手前で“もぎ取って”見せた。おおっ。
『X』のリリース時点でフォープレイのオジサン4人は60歳。「もう60歳」って感覚か? でもどっこい『X』のフォープレイは「まだ60歳」の感覚有り。
人生はこれからなのだ。フォープレイの第三章もこれからなのだ。
01. TURNABOUT
02. CINNAMON SUGAR
03. EASTERN SKY
04. KID ZERO
05. MY LOVE'S LEAVIN'
06. SCREENPLAY
07. TWILIGHT TOUCH
08. BE MY LOVER
09. SUNDAY MORNING
(ブルーバード/BLUEBIRD 2006年発売/BVCJ-31044)
(ライナーノーツ/工藤由美)
(ライナーノーツ/工藤由美)