
ではなぜ菊地成孔は電化マイルスを模倣するバンドを2つも用意する必要があったのだろうか? その答えは「DUB SEXTET」と「DCPRG」との性格の違いにある。
そう。電化マイルスを高レベルで表現するには性格の異なる2つのバンドを用意する必要がある。この意見に管理人も賛成である。
「DUB SEXTET」の方は,ウェイン・ショーター&ジョー・ザビヌルからのウェザー・リポート方面,ハービー・ハンコックからのヘッド・ハンターズ方面,チック・コリアからのリターン・トゥ・フォーエヴァー,ジョン・マクラフリンからのマハヴィシュヌ・オーケストラ方面までを網羅する,菊地成孔が惚れ込んだ“カッチョヨイ”電化マイルスの後継バンド。
一方の「DCPRG」とは電化マイルスの異端作=『ON THE CORNER』の世界を表現するためのバンドだと思う。
それくらいに『ON THE CORNER』の演奏には代わりが利かない。つぶしが利かない。だから「DCPRG」でのツイン・ドラムを躍らせたポリリズムなのだった。
( ここでブレイク。これは後で知ったことなのだが,菊地成孔が「DATE COURSE PENTAGON ROYAL GARDEN(DCPRG)」を結成した目的は電化マイルスではなかった。菊地雅章の『SUSTO』収録の超難曲=7拍子と4拍子のポリリズム【CIRCLE/LINE】を再現したかったからだと語っていた。なあんだ菊地雅章だったのか。電化マイルスと菊地成孔とは同意語です。『REPORT FROM IRON MOUNTAIN』収録の4曲目で完コピできています )。
『REPORT FROM IRON MOUNTAIN』のハイライトとは複雑なポリリズムである。ポリリズムを耳で追っていると大好きな『ON THE CORNER』の世界とダブッていく。リズムの多層性で空気を揺らす。しかし難解さは無い。
いくつものリズムが混ざり合ったり合わなかったりしながら巨大なグルーヴのカオスが生み出されていく。脳が徐々に破壊されては新しい脳として修復されていくような錯覚と快感が素晴らしい。繰り返し聴き込むうちにポリリズムの構造が紐解かれてゆく…。
そう。『REPORT FROM IRON MOUNTAIN』の聴き所は「混沌と秩序の芸術」なのであろう。

第一期「DCPRG」の良さは第二期「DCPRG」にではなく「DUB SEXTET」に引き継がれているように思う。
振り返れば1stの『REPORT FROM IRON MOUNTAIN』が一番バランスが良かったように思う。正直,アルバムが出る度に「DCPRG」の美味しい音世界が崩れていった印象を抱いている。
『REPORT FROM IRON MOUNTAIN』にはアドリブも含まれてはいるが,かっちり明瞭にコントロールされたアドリブであって危うい即興の破綻や暴走はない。
と言うよりもJAZZYなポリリズムの上に乗ったメロディーは完全にポップスのあれである。【S】の甘さと展開力には感動で涙がこぼれてくる!
01. CATCH 22
02. PLAY MATE AT HANOI
03. S
04. CIRCLE/LINE〜HARD CORE PEACE
05. HEY JOE
06. MIRROR BALLS
(Pヴァイン/P-VINE 2001年発売/PCD-18502)