NOBU CAINE-1 角松敏生は元来,フュージョンの人,である。
 徳永英明やスガシカオがそうだったように,角松敏生もいつの日か制作されるフュージョン・アルバムを売る目的でまずは歌を歌ってきた人である。

 そんな「角松“フュージョン”敏生」の“夢の実現”が,完全インストのギターフュージョン・アルバム『SEA IS A LADY』であるとすれば,もう1つが“本性丸出し”のプロデュース・アルバム『NOBU CAIN』であろう。
 『SEA IS A LADY』では表現できなかった角松フュージョンの理想形が『NOBU CAIN』のサウンド・メイクに色濃いと思っている。

 ノブ・ケインとは,パーカッション斎藤ノブを中心に集まった「オール・ジャパン・スタジオ・ミュージシャン・リズム・セクション・バンド」である。
 メンバーはパーカッション斎藤ノブドラム村上“ポンタ”秀一島村英二ベース青木智仁,そこにキーボード難波正司小林信吾ギター松原正樹の上物が乗っている。

 まっ,このように紹介しても良いのだが,元々のノブ・ケインの始まりは,角松敏生のバック・バンドである。つまり角松敏生が抜けたバック・バンドを斎藤ノブがまとめたのがノブ・ケインである。ロベン・フォードイエロージャケッツのような関係にあるのが角松敏生ノブ・ケインというわけだ。

 ノブ・ケインの基本は“ドンシャリ”である。斎藤ノブパーカッションツインドラム編成だから当然そういう方向になる。簡単に言えば打楽器インストである。
 しかし,実際には打楽器インスト以上に感じるのが「角松“フュージョン”敏生」の存在感。そこに角松敏生がいてもいなくても,幾年も角松敏生の薫陶を受けてきた面々の集合体である。
 インストでなければ伝えられない,キャッチーなメロディー・ラインを聴かせるために,鉄壁のリズム・セクションが「角松“フュージョン”敏生」を表現していることに驚きを隠せなかった。

 そう。ノブ・ケインの『NOBU CAIN』を初めて聴いた時の“ギャップ”が今でも忘れられない。
 『NOBU CAIN』聴くまではその当時,世界を席巻していた「HIROSHIMA」的なリズミックな音楽をイメージしていたのだが,実際に耳に飛び込んできたのは,歌もの顔負けの角松敏生のメロディアスなメロディーそのまんま!

 …っとノブ・ケインについては7年間そう思ってきた。ジンサクの『DISPENSATION』を聴くまでは…。

NOBU CAINE-2 ジンサクの『DISPENSATION』を聴いて初めてノブ・ケインの本質が理解できた。角松フュージョンの本質が理解できた。

 角松敏生という音楽家はフュージョンを表現する上で,ギター以上にベースドラムで表現する才能に長けている。
 ベース櫻井哲夫ドラム神保彰による最強ユニットが『DISPENSATION』でPOPに振れたくらいだから,パーカッションツインドラムノブ・ケインがPOPに振れるのなんてワケないこと。

 角松敏生がメロディーを歌わせる手法とは,ギター以上にベースドラムノブ・ケインならパーカッション。リズム隊がアレンジの中心として,パーカッションがメロディーの聴き所を強調するアクセントとして,角松フュージョンのベーシックな役割を担っている。

 ズバリ『NOBU CAIN』は,当時流行りのJ−POPの打楽器インストである。しかし,その本質は鉄壁のリズム隊が表現する「リズムを超えた」歌ものである。これぞ「角松“フュージョン”敏生」の音楽である。これぞ「裏」角松フュージョン名盤である。

 角松敏生フュージョン愛,恐るべし! 極上のリズムにフロントを引っ張らせる角松敏生の才能,恐るべし!

 
01. ASIAN WIND
02. YOU ARE A GREAT GIRL〜interlude 香港の朝市
03. SAVANNA MOON
04. BAN-COCK
05. JESSICA
06. NIGHT IN KOZA
07. CARIBBEAN PIRATES
08. ソバカスのある少女
09. I'M GONNA FORGET YOU〜BACK TO THE ISLAND

 
NOBU CAINE
NOBU SAITO : Percussion, Vocal
SHUICHI "PONTA" MURAKAMI : Drums, Percussion
EIJI SHIMAMURA : Drums, Percussion
TOMOHITO AOKI : Bass, Percussion
TADASHI NAMBA : Keyboards, Percussion
SHINGO KOBAYASHI : Keyboards, Percussion
MASAKI MATSUBARA : Guitar, Percussion

TOSHIKI KADOMATSU : Guitar, Computer Programming, Keyboards, Percussion, Vocal, Background Vocal
KAYOKO JACKEY TAKAHASHI : Background Vocal
SHIGERU SUZUKI : Guitar
KANICHIRO KUBO : Computer Manipulator, Synthesizer Manipulator

(オーン・レコード/OM RECORDS 1989年発売/M32D-1003)
(ライナーノーツ/小倉エージ)

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詩編13編 神の救いを切望する
NATIVE SON 『アクア・マリン