
その心は「バド・パウエル崩れ」で語られるよりも「ソニー・クラーク系マイナー崩れ」の方が正しいと思っている。
『ELMO HOPE TRIO』(以下『エルモ・ホープ・トリオ』)は,一聴すると確かにバド・パウエルっぽい。テンポとか音の間に関しては“もろ”バド・パウエル似で間違いない。
しかし『エルモ・ホープ・トリオ』を繰り返し聴いて,耳が慣れてくると,聴こえてくるのは,劣化したバド・パウエルなのだが,あるレベルを越えてしまった瞬間,エルモ・ホープのマイナー・ピアノがソニー・クラークっぽい。
要するに日本人好みの“ジャズ・ピアニスト”の一人がエルモ・ホープで間違いない。
ただし,エルモ・ホープ好きを名乗るのは,ちょっと「天の邪鬼なピアノ・ファン」が多いように思う。
これには理由があってエルモ・ホープ好きとは前提としてのマイナー・ピアノ好き。マイナー好きの世界ではソニー・クラークが一番手だから,ソニー・クラークを敢えて外した集団がエルモ・ホープ・ファンを構成しているように思う。この世界を理解するのは難しいのだ。
『エルモ・ホープ・トリオ』でのエルモ・ホープのピアノが,なかなかに手強い。エルモ・ホープの中にいるバド・パウエル的な顔とソニー・クラーク的な顔が同居したうえで,エルモ・ホープの個性が出ている。
パズルのように構築されたフレーズの集積は,非メロディアスというわけではないが,情緒的で甘い砂糖菓子のようなフレーズはほとんど出てこない。
例えば,スローテンポで演奏される,砂糖菓子のようなメロディーの【LIKE SOMEONE IN LOVE】においても,ピリリと辛口のピアノである。

う〜む。『エルモ・ホープ・トリオ』はなかなかに手強い。上級者向けのピアノ・トリオである。
平易な語り口で語りかけるので一瞬分かったつもりになってしまうが,エルモ・ホープは意図時にツボを外し核心を隠してくる。まるでリスナーに謎かけでもしているように…。
エルモ・ホープ好きの中でも『エルモ・ホープ・トリオ』は「天の邪鬼なピアノ・ファン」には堪らないアルバムなのだろうなぁ…。
01. B'S A-PLENTY
02. BARFLY
03. EEJAH
04. BOA
05. SOMETHING FOR KENNY
06. LIKE SOMEONE IN LOVE
07. MINOR BERTHA
08. TRANQUILITY
(ハイ・ファイ/HIFI 1959年発売/VDJ-1649)
(ライナーノーツ/小川隆夫)
(ライナーノーツ/小川隆夫)