BLUE SPIRITS-1 フレディ・ハバードにとって『BLUE SPIRITS』(以下『ブルー・スピリッツ』)は,ハービー・ハンコックの『エンピリアン・アイルズ』『処女航海』やウエイン・ショーターの『スピーク・ノー・イーヴル』録音の時期と重なる「油の乗り切った」最良の時代の演奏である。

 仮に『ブルー・スピリッツ』が『エンピリアン・アイルズ』『処女航海』『スピーク・ノー・イーヴル』と同じく,トランペットフレディ・ハバードテナーサックスウエイン・ショーターピアノハービー・ハンコックベースロン・カーターの布陣で制作されていたならば「偉大なるサイドメン」としてのフレディ・ハバードの人生も大きく変わっていたことと思う。

 それくらいの重要な時期にフレディ・ハバードが発表したのが,4管編成アンサンブル集の『ブルー・スピリッツ』であった。
 なぜこのタイミングで『ブルー・スピリッツ』だったのか? 『ブルー・スピリッツ』は新主流派というよりも,管楽器でベース・ラインを膨らませたジャズ・ロックに分類される。

 結果として駄盤認定の『ブルー・スピリッツ』であるが,フレディ・ハバードとしては4管編成アンサンブル集の『ブルー・スピリッツ』こそが「一番の自信作」なので当然のことに過ぎない。

 「人生を賭けた大勝負」で,旧いジャズ・ロックから最先端の新主流派までを1枚で表現している。作曲と編曲をこなしている。分厚いくせに軽いアンサンブルが聴き所。
 そう。『ブルー・スピリッツ』のようなアルバムは,世界で唯一人,フレディ・ハバードでないと作ることのできなかったアルバムなのだった。

 ただし,持てる力を全部発揮したからと言って,それだけではいい音楽は作れない。やっぱりここはハービー・ハンコックウエイン・ショーターに「頼み込んででも」参加してもらうべきだった。
 そして『エンピリアン・アイルズ』『処女航海』『スピーク・ノー・イーヴル』の続編を歩むべきだった。

 『ブルー・スピリッツ』の制作は3年後がベストであった。実は3年後に『ブルー・スピリッツ』と同じアプローチで制作されたアルバムがある。ハービー・ハンコックの『スピーク・ライク・ア・チャイルド』である。

BLUE SPIRITS-2 4菅編成の『ブルー・スピリッツ』と3管編成の『スピーク・ライク・ア・チャイルド』は,共にギル・エヴァンスの影響を受けたであろう壮大なオーケストレーションが聴き所である。

 しかし両者が決定的に異なるのは『ブルー・スピリッツ』がアンサンブルを聴くためのジャズなのに対して『スピーク・ライク・ア・チャイルド』のアンサンブルはおまけであって,主役はあくまでもハービー・ハンコックピアノなのである。

 3管には柔らかなムードだけを求めたハービー・ハンコックが一枚上手である。フレディ・ハバードの『ブルー・スピリッツ』での失敗は,とことん4菅にこだわりすぎたこと。4菅に音楽的な必然性を持たせることは難しかったかなぁ。

  01. SOUL SURGE
  02. BLUE SPIRITS
  03. OUTER FORCES
  04. CUNGA BLACK
  05. JODO

(ブルーノート/BLUE NOTE 1965年発売/TOCJ-4196)
(ライナーノーツ/ナット・ヘントフ,原田和典,ケニー・ワシントン)

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