
こんなスタンスの音楽ファンはきっと多いと思う。海賊盤は悪である。世に出してはいけない。そのことを自覚すればこそ,好きなアーティストの音源は全部聴いてみたいしコレクションもしたい,という内面の葛藤と闘うことになる。
レコード会社はそのことを分かっている。それで悪魔の囁き「やれ別テイクだ。やれ発掘盤だ」と誘ってくる。攻勢を仕掛けてくる。
そんなレコード会社の近年の荒業の1つに「公式ブートレグ」の発売がある。公式であるからファンも良心が痛まない。公式であるから音質も一定基準を満たしている。いい時代である。
…でっ,前置きが長くなってしまったが,今夜ご紹介するのは「フル・ムーン」の「公式ブートレグ」『FULL MOON LIVE』(以下『フル・ムーン・ライブ』である。
この『フル・ムーン・ライブ』が真に最高である。諸手を挙げて推薦する屈指の名盤の1枚である。
先に公式なら音質も一定基準を満たしていると書いたが『フル・ムーン・ライブ』の元ネタはバジー・フェイトンの個人所有の録音テープ。どんなに最高の編集技術を駆使しようと元ネタがカセットテープ・レベルであればどうしようもない。どれほどマスタリングで加工しようともチープな音質に変わりはない。音質としてはブートの中でも劣悪な部類に入るレベルであろう。
でもでもでも,それでも『フル・ムーン・ライブ』が真に最高である。当然のことなのだがCDって音質の前に内容である。内容が良ければ音質が悪いという理由だけでCD未発売という選択肢はないのである。未発売は世界の大損失なのである。
とにかく,冒頭の【MESSAGE FROM BEYOND】である。このヒートアップする観客の勢いに圧倒されてしまう。アドレナリンが止まらなくなる。
ドラムとパーカッションの最高の乱れ打ちに煽られた観客の熱狂的な叫び声が,続くバジー・フェイトンのギターにパワーを与えている。
流ちょうすぎるギターのテーマが重なり入ってきた瞬間の歓びと言ったら…。あの高揚感は他の何物にも代え難い。【MESSAGE FROM BEYOND】における出だしの数秒間がバジー・フェイトンの名演の中の名演で間違いない。
自分がライブ会場のど真ん中にいるような気になれる程「フル・ムーン」の演奏に没入できる。イントロが流れるとすぐにベイクド・ポテトへトリップできる。これほどの臨場感を感じられるのも「公式ブートレグ」の魅力であろう。

スタジオ録音ではヴォーカル優位の「フル・ムーン」であるが,編集の都合なのか?『フル・ムーン・ライブ』におけるバジー・フェイトンのヴォーカル曲は1曲のみ。インスト曲ばかりなのが特にお気に入り!
『フル・ムーン・ライブ』を聴く前から「フル・ムーン」が好きだったのだが『フル・ムーン・ライブ』を聴いてからというもの,以前の何倍も「フル・ムーン」が好きになったし,改めて聴き直した『FULL MOON』『LARSEN−FEITEN BAND』『FULL MOON FEATURING NEIL LARSEN & BUZZ FEITON』が好きになった。
管理人の「フル・ムーン」のファン人生を変える転機となった『フル・ムーン・ライブ』にはそれだけ大きな力があるということです。ライブ盤にはそれだけ大きな力があるということです。
01. MESSAGE FROM BEYOND
02. LITTLE COWBOYS
03. FUTURAMA
04. AZTEC LEGEND
05. FURTHER NOTICE
06. SIERRA
07. DEMONETTE
08. PHANTOM OF THE FOOTLIGHTS
09. SUDDEN SAMBA
(ドリ−ムズヴィル・レコード/DREAMSVILLE RCORDS 2002年発売/YDCD-0089)
(ライナーノーツ/工藤由美)
(ライナーノーツ/工藤由美)