IN THE TRADITION VOL.1-1 『IN THE TRADITION VOL.1』(以下『イン・ザ・トラディション VOL.1』)の購入目的はアンソニー・ブラクストンではなかった。
 尤もアンソニー・ブラクストンの演奏を1度も聴いたことがなかったので,どんなものかという興味もあった。しかし管理人にとってアンソニー・ブラクストンは“おまけ”であって,主たる購入目的はテテ・モントリューピアノであり,ニールス・ペデルセンベースであり,アルバート・ヒースドラムである。要は超絶系のテテ・モントリューピアノ・トリオスタンダード集が聴きたかった。

 アンソニー・ブラクストンコントラバスクラリネットが強烈! 危ういノリのアルトサックスの表は好きだし裏はもっと大好き!
 そう思えるのも,正統派気取りでアヴァンギャルド丸だしなアンソニー・ブラクストンアルトサックステテ・モントリュートリオが見事にまとめ上げている。
 ズバリ,テテ・モントリューあってのアンソニー・ブラクストン名演集なのである。

 事実『イン・ザ・トラディション VOL.1』を聴いた後,アンソニー・ブラクストンの有名フリー・ジャズを幾枚か購入してみたのだが,どうにも気に入らずに中古CD屋送り。
 たまたま出会ったテテ・モントリューあっての『イン・ザ・トラディション VOL.1』が,管理人とアンソニー・ブラクストンの偶然にして幸運な出会いだったのだと,後から思い知らされた次第である。そういうことで『イン・ザ・トラディション VOL.2』には即・飛びついてしまった。

 そう。異端と正統派が組した“異種格闘技盤”『イン・ザ・トラディション VOL.1』の挑戦者とは,初めてスタンダードに取り組んだアンソニー・ブラクストンの方ではない。真の挑戦者とは暴れ馬の手綱を握ったテテ・モントリューの方なのである。

 『イン・ザ・トラディション VOL.1』におけるアンソニー・ブラクストンの何がそこまで管理人を魅了するのか? その答えはアート・ペッパーである。ストレート・アヘッドなハードバップを演奏するアンソニー・ブラクストンを聴いているとアート・ペッパーを感じるのだ。
 剃り込みアイパーのアンソニー・ブラクストンが七三分けに転じてスタンダードで押し込もうとすると「あら不思議」アート・ペッパーへと変身してしまう。「どうして,こういうことになったのか?」という意味で,このまさかの化学反応を面白いとは思いませんかっ!?

 尤もこれには秘密があってコントラバスクラリネットの【GOODBYE PORK PIE HAT】の後でアルトサックスの【JUST FRIENDS】。再びコントラバスクラリネットの【ORNITHOLOGY】の後でアルトサックスの【LUSH LIFE】。
 この硬軟織り交ぜた「バケモノとクソマジメ」の展開が,管理人の頭の中のアート・ペッパーを浮かび上がらせるのだ。特に後期のアート・ペッパーのあの凄み。

IN THE TRADITION VOL.1-2 いや〜,スティープルチェイスニルス・ウインターのマジックにやられてしまった。ライナーノーツを読むと,元々この企画はアンソニー・ブラクストンのためではなくデクスター・ゴードンのためのものだったそうだが,デクスター・ゴードンの代役としてアンソニー・ブラクストンを指名した企画力に恐れ入ってしまう。

 ジャズ・マニアの常識では想像できなかった極上の音がニルス・ウインターには想像できたのだ。アンソニー・ブラクストンの中の後期アート・ペッパーが吹き上げるスタンダードの音を…。そうしてテテ・モントリュートリオが見事にまとめ上げた,前人未到の化学反応の音を…。

 テテ・モントリューニールス・ペデルセンが組めば,アンソニー・ブラクストンが垂れ流す,音楽的とは呼べない,何とも表現し難い異次元のスタンダードが,ちゃんと音楽として聴こえてしまう。

 テテ・モントリューが好きで後期アート・ペッパーが好き。この条件に当てはまるジャズ・マニアであるならば,スタンダードの基本を押さえた上で,音楽的にアヴァンギャルドしてしまうアンソニー・ブラクストンに必らずや魅了されることをここに保証する。

  01. MARSHMALLOW
  02. GOODBYE PORK PIE HAT
  03. JUST FRIENDS
  04. ORNITHOLOGY
  05. LUSH LIFE
  06. TRANE'S BLUES

(スティープルチェイス/STEEPLECHASE 1974年発売/VACE-1011)
(ライナーノーツ/熊谷美広)

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