
そんな中,変化とか新しさを毛頭考えず,自分が心酔してきたハード・バップをひたすら楽しく形にした演奏もある。その筆頭格がベニー・グリーンの『WALKIN’ AND TALKIN’』(以下『ウォーキン・アンド・トーキン』)であろう。
そうして『ウォーキン・アンド・トーキン』の味は,4000番台の下から何番目かの人気盤なのが勿体無いくらいに,他の99枚とは絶対に被らない“格別の味”がするのであった。
『ウォーキン・アンド・トーキン』のメンバーは,トロンボーンのベニー・グリーン,テナー・サックスのエディ・ウィリアムス,ピアノのギルド・マホネス,ベースのジョージ・タッカー,ドラムのアル・ドレアーズ。
どう見ても小粒のメンバーばかり。音楽的には懐古趣味。これではそう滅多にジャズ・ファンの話題に上ることもないであろう。
でもいいんです。それでいいんです。『ウォーキン・アンド・トーキン』は「聴く人を選ぶ」アルバムなのです。
『ウォーキン・アンド・トーキン』の“美味しさ”が分かる人は今でも愛聴し続けています。ハード・バップが過ぎ去ろうかという時代にビ・バップより更に遡るジャズの故郷を聴かせてくれている。
先を競って都会に出ようとして時代に,地方へ土着して,あっけらかんと笑っているベニー・グリーンのレギュラー・バンド御一行様…。
『ウォーキン・アンド・トーキン』を聴いていると,ベニー・グリーンのような人をジャズメンと呼ぶんだなぁ,と思ってしまう。
『ウォーキン・アンド・トーキン』で,ベニー・グリーンが演奏するのはトロンボーンではない。もしやメインは掛け声と手拍子と指パッチン!?であってトロンボーンはおまけである。ベニー・グリーンは「ホワワ〜んとした」音を出す人である。
そんなベニー・グリーンに引っ張られて,快調に飛ばしてくれるのがテナー・サックスのエディ・ウィリアムスとピアノのギルド・マホネスである。
この三者の音の絡み合いが“歩きながら&話をしながら”の『ウォーキン・アンド・トーキン』そのものであろう。

『ウォーキン・アンド・トーキン』は,ジャズのどんなスタイルにも属していない。ただジャズの楽しさを聴かせるだけのアルバムである。
「いやぁ,映画って本当にいいものですね」と語ったのは水野晴郎だが,さながらベニー・グリーンは「いやぁ,ジャズって本当にいいものですね」と語りかけているようなもの。
管理人は年に1度は『ウォーキン・アンド・トーキン』を一日中聴き続けて過ごすことがあります。単純にCDを他の物に入れ替えたりPCオーディオのプレイリストを選択し直すのが面倒だという理由ではありません。本当に『ウォーキン・アンド・トーキン』を何十回でも気持ち良く聴ける日があるのです。
01. THE SHOUTER
02. GREEN LEAVES
03. THIS LOVE OF MINE
04. WALKIN' AND TALKIN'
05. ALL I DO IS DREAM OF YOU
06. HOPPIN' JOHNS
(ブルーノート/BLUE NOTE 1959年発売/TOCJ-4010)
(ライナーノーツ/ロバート・レヴィン,原田和典,中安亜津子)
(ライナーノーツ/ロバート・レヴィン,原田和典,中安亜津子)
コメント