THROB-1 キース・ジャレット命の管理人。全てのキース・ジャレット・ファンにとって「完全コレクション」への鬼門の1枚は長らく『ゲイリー・バートン&キース・ジャレット』であった。
 世界最高のジャズメン,と言うより,世界最高のミュージシャン=キース・ジャレットのアルバムだと言うのに『ゲイリー・バートン&キース・ジャレット』がなぜCD化されていないのか? この奇妙な現実は世界遺産の崩壊に近い。

 (途中経過は省略)『ゲイリー・バートン&キース・ジャレット』が1994年についにCD化された。しかしキース・ジャレットのラインではなくゲイリー・バートン・サイドとしてのCD化である。
 何と!『ゲイリー・バートン&キース・ジャレット』単体ではなく,ゲイリー・バートンの『THROB』(以下『鼓動』)との「2in1」でのリリース。

 まぁ,不満はあるっちゃあるが,まずは待望の『ゲイリー・バートン&キース・ジャレット』のCD化が実現しただけでも大喜び! そしてここが重要なのだが,オマケ程度に考えていたカップリングの『鼓動』の出来が最高に素晴らしい。
 ここだけの話『ゲイリー・バートン&キース・ジャレット』が星4つであるならば『鼓動』は星6つ〜。

 『鼓動』が全く話題になっていないとはけしからん。ゲイリー・バートンの一番美味しい音楽はラリー・コリエルとの共演作ではなくアトランティック移籍後に吹き込んだ「ジャズ・ロック」にあると思っている。

 ジャズってアメリカの黒人の音楽とはアフリカの音楽だと思われているが,最近優勢なジャズとは実は白人のジャズである。その始まりがちょうどゲイリー・バートンアトランティックに吹き込んだ,ポップス,ロック,クラシック,カントリー&ウェスタン,フォークとの融合の時代。ここにエレクトリックが入ってきた時代。それなのにミニマルっぽい。超面白いジャズからフュージョンへの橋渡しの時代。

 ジャズの中で細分化される全てのジャンルにマイルス・デイビスが関わっており,フュージョンにおいても『ビッチェズ・ブリュー』の評価が高いが,実はゲイリー・バートンの『鼓動』もフュージョンへ移行していくジャズ・シーンを語る上では欠かせない。
 もはやジャズとはブルースをやらないのが定番となり始めた,その走りの1枚が『鼓動』なのであって,聴いていてメチャメチャ面白い。

 「2in1」の『ゲイリー・バートン&キース・ジャレット』と『鼓動』を比べると『鼓動』よりも後年録音の『ゲイリー・バートン&キース・ジャレット』の方が洗練されているようでいて,どうして&どうして…。

 個人的な印象では『ゲイリー・バートン&キース・ジャレット』よりも『鼓動』の方が完成度は高い。『鼓動』の音楽の質は,すでに実験の域をはるかに超えて,新たに確立されたされた「ジャズ・ロック」のフォーマットに基づいたものであるし,成熟の直前にだけ持つことのできる「唯一無二の美味しさ」が記録されているからなのだろう。

THROB-2 まっ,今聴くと「時代の名盤」の匂いが漂っているので評価は低いが,若きゲイリー・バートンのナイーブな感性と大胆な冒険スピリットが混然一体となって陶酔の世界へと誘ってくれる。

 ゲイリー・バートンのルーツとしてのカントリー・ロックとかフォークとか電化ジャズなどの複数の要素が『鼓動』で完璧に融合している。ポップでスピリチュアルな「ジャズ・ロック」のハイブリット化が『鼓動』で完成されている。
 『鼓動』を,ジャズとしても,ロックとしても,フュージョンとして聴いたとしても絶対に面白い。『鼓動』の「ジャズ・ロック」がレトロっぽいのに五感をフルに刺激してくる。

 ゲイリー・バートンの全ディスコグラフィー中,一番エキサイティングなアルバムは『鼓動』である。「ジャズ・ロック」に限って語れば,あのキース・ジャレットの「ジャズ・ロック」期の先を行ったゲイリー・バートンの「ジャズ・ロック」が聴けば聴くほど面白い!

PS この記事は先週UPの『ゲイリー・バートン&キース・ジャレット』との「2in1」繋がりです。エヘヘ。音楽同様オマケなのではありません。テヘヘ。

 
01. HENNIGER FLATS
02. TURN OF THE CENTURY
03. CHICKENS
04. ARISE, HER EYES
05. PRIME TIME
06. THROB
07. DOIN THE PIG
08. TRIPLE PORTRAIT
09. SOME ECHOES

 
GARY BURTON : Vibes, Piano
JERRY HAHN : Guitar
RICHARD GREENE : Violin
STEVE SWALLOW : Bass
BILL GOODWIN : Drums

(アトランティック・ジャズ/ATLANTIC JAZZ 1969年発売/AMCY-1124)
(ライナーノーツ/杉田宏樹)

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土地の配分(ヨシ13:1-22:34)
赤木りえ 『素敵な恋をするためにVol.2 Kissの予感